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それから王宮で開かれるパーティーに出席するリンドバーグ公爵にくっついていっては、デクスターとの会話を楽しみにするようになったクラリス。
そのパーティーの様子を観察するたび、クラリスは子どもながらに、いつも不思議に思うことがあった。
イライジャが王妃の子。デクスターは側妃の子だというのは、父親から聞かされた。次期国王は、イライジャだろうとも。
(あのおうひのこより、デクスターさまのほうが、よほどひんがあるのに)
はじめて挨拶をしたイライジャは、デクスターと義母兄弟とは思えないほどに品がなく、傲慢に見えたものだ。
(デクスターさまのほうが、ぜったいおうさまにむいているのにっ)
父親は毅然しているが、大勢の大人たちは、まだ子どものイライジャに、あからさまに気を使い、ご機嫌うかがいしているのが見え見えだった。そのくせ、デクスターには見向きもしない。クラリスはそれが、とても嫌だった。
互いに、一目惚れに近い状態ではあった。だが、リンドバーグ公爵家の令嬢となんて、という思いがデクスターの中には強くあり。クラリスはクラリスで、あんな素敵な王子様にはもう、決められた婚約者がいるはず、という思い込みがあった。
両想いなどと、夢にも思わず。
それでも自分の想いを打ち明けようとクラリスが決心できたのは、皮肉にも、イライジャに婚約者に選ばれてしまったからだった。
自身がイライジャの婚約者候補だったことすら知らなかったクラリスは、愕然とした。まともに会話したことがない自分がどうして選ばれたのかもわからず、ただ、絶望した。
──もっとも、まともに会話をしたことがなかったのは、クラリスが意図的にイライジャを避けていたからだったのだが。
「……どうしてわたしを選んだのですか」
たずねるとイライジャは一言。「顔が好みだったからだ」と、偉そうに腕組みをして答えた。選ばれて光栄だろう? 顔にそう書いてあって、クラリスは思わず、手が出そうになった。
そのパーティーの様子を観察するたび、クラリスは子どもながらに、いつも不思議に思うことがあった。
イライジャが王妃の子。デクスターは側妃の子だというのは、父親から聞かされた。次期国王は、イライジャだろうとも。
(あのおうひのこより、デクスターさまのほうが、よほどひんがあるのに)
はじめて挨拶をしたイライジャは、デクスターと義母兄弟とは思えないほどに品がなく、傲慢に見えたものだ。
(デクスターさまのほうが、ぜったいおうさまにむいているのにっ)
父親は毅然しているが、大勢の大人たちは、まだ子どものイライジャに、あからさまに気を使い、ご機嫌うかがいしているのが見え見えだった。そのくせ、デクスターには見向きもしない。クラリスはそれが、とても嫌だった。
互いに、一目惚れに近い状態ではあった。だが、リンドバーグ公爵家の令嬢となんて、という思いがデクスターの中には強くあり。クラリスはクラリスで、あんな素敵な王子様にはもう、決められた婚約者がいるはず、という思い込みがあった。
両想いなどと、夢にも思わず。
それでも自分の想いを打ち明けようとクラリスが決心できたのは、皮肉にも、イライジャに婚約者に選ばれてしまったからだった。
自身がイライジャの婚約者候補だったことすら知らなかったクラリスは、愕然とした。まともに会話したことがない自分がどうして選ばれたのかもわからず、ただ、絶望した。
──もっとも、まともに会話をしたことがなかったのは、クラリスが意図的にイライジャを避けていたからだったのだが。
「……どうしてわたしを選んだのですか」
たずねるとイライジャは一言。「顔が好みだったからだ」と、偉そうに腕組みをして答えた。選ばれて光栄だろう? 顔にそう書いてあって、クラリスは思わず、手が出そうになった。
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