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 ──数年後。

 義姉からの手紙に、カミラは私室の椅子に座りながら、笑みを浮かべていた。

 毎年、誕生日にかかさず贈られてくる手紙とプレゼントに、胸がほんわか温かくなる。

「……ありがとう、バーサ」

 手紙を抱き締め、噛み締めるように呟く。

 


 ブラッドと婚約解消してから、しばらくして、バーサからとある人物を紹介された。それは、王宮で文官として働いている、バーサの婚約者の弟だった。

 カミラが十六歳になる、数日前。バーサから聞かされた惚気話の真相は、弟が妻に浮気され離縁したと知り、不安になったバーサの婚約者が、手紙に愛を記した、というものだった。

「とても誠実で、いい人よ。私が保障する」

 いずれは誰かと結婚しなければならない。ならばと、信頼するバーサにすすめられるまま、バーサの婚約者の弟と会った。

 ブラッドと婚約解消した理由を知れば、そんなことで別れたのですかと責められることも覚悟していた。後悔はないが、その程度でと言われても仕方ないという思いもあったから。

 でも、責められなかった。どころか、想いに寄り添ってくれた。彼の方がよほど、酷い裏切りにあっただろうに。

 単純にそれが嬉しくて、また会う約束を交わした。そうしてカミラは次第に、彼に心を許していった。王宮につとめる彼はとても優秀で、バーサの言ったとおり、誠実で。クルス伯爵も彼のことを気に入り、知り合って一年してから婚約。学園を卒業すると同時に結婚した。

 そして、バーサとは義姉妹となった。




「──カミラ、時間だよ」

 ドレス姿のカミラが、バーサからの手紙に、過去に想いをはせていると、後ろから声をかけられた。

 振り返り、カミラが微笑む。

「ええ、あなた」

「行こう。みんながきみを待ってる」

「はい」

 差し出された手に、そっと触れる。屋敷の広間には、カミラのための誕生日パーティーが用意され、カミラのために集まってくれた人たちがいる。

 カミラは知っている。

 誕生日を祝ってもらえる。それが当たり前ではなく、とても幸福なことなのだと。


 だから、心からの感謝を。

 例え、ありきたりの言葉だとしても。


「みなさま。今日はわたしのために集まっていただき、ありがとうございます」


 とびきりの笑顔で。


      
             ─おわり─

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