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 ブラッドは決して、カミラを嫌っていたわけではない。ただ、次期領主としての重圧やら、努力やら。疲れていたのは確かだ。

 あまり褒められることのなかった人生で、可愛い女性が、貴族令息というだけですごいと褒めてくれ、なにを言ってもすごいと笑ってくれることが、ブラッドの中の自尊心をひどく満たしてくれた。

 もっとそれを味わいたくて、誕生日プレゼントを贈り、誕生日パーティーを開いた。

 ただ、それだけ。

 それだけで、なぜこんなことになってしまったのだろう。

「お前とカミラ嬢の婚約は、正式に解消された」

 クルス伯爵の元から戻ってきたデルーカ子爵は、執務室に呼び寄せたブラッドに、そう告げた。

「カミラ嬢が、婚約解消に応じてくれればそれ以上はなにも望まない。そう言ってくれたおかげで、我が家の損失はない。クルス伯爵は、不満そうだったがな」

 そんなこと当たり前じゃないか。ブラッドが胸中で呟く。それを知ってか知らずか。

「だがな。その場には、バーサ嬢だけでなく、他の貴族令息もいたんだろう。お前の愚行が広まれば、我が家の評判はがた落ちだ。本当に馬鹿な真似をしてくれた」

「……申し訳ありません。今後は、このようなことがないようつとめますので」

 納得がいかないながら、ブラッドが頭を下げる。デルーカ子爵は、今後か、と呟いた。

「貴族社会は狭い。お前のような愚行をおかした男の婚約者になりたいと思う令嬢が、いると思うか?」

「……努力します」

「なにをどう努力するんだと問いたいところだが、もういい。お前は、好きに生きろ。なんなら、ご執心の街娘と一緒になればいい。誰も止めはせん」

 一拍置いてから、ブラッドは「……え?」と頭を上げた。交差したデルーカ子爵の双眸は、恐ろしいほど、冷ややかだった。


「──お前をデルーカ子爵家から除籍する」

 
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