あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ

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 カミラが王都に戻ってくるより早く、ブラッドの元に、デルーカ子爵から手紙が届いた。

 それはとても簡潔なもので。すべての使用人と共に、こちらに戻ってこいというものだった。

 カミラのことについてなにも書かれていないのがかえって不気味で、ブラッドは王都を出立してからずっと、無言で顔を青ざめさせていた。けれど、一緒にいる使用人たちから、大丈夫ですかと、心配する声が上がることはなく。

 デルーカ子爵の屋敷に着いたブラッドは、一人きり──ではなく、使用人たちと一緒に、デルーカ子爵の執務室へと向かった。

「……ブラッドです」

 ノックしてから名乗ると、入れ、との声が中から響き、扉を開けた。デルーカ子爵は椅子の背もたれに体重を預けていたが、疲れたようにゆっくり身体を起こすと、執務机の上に手紙を置いた。

「クルス伯爵からの手紙だ。お前とカミラの婚約を解消したいことと、その理由が記されていた。了承するなら、返事をと」

「…………っ」

 予想はできた。できたが、たったあれだけのことで、クルス伯爵が本気で婚約解消を申し出てくることが信じられなかった。

「父上、聞いてください! ぼくにも悪いところはありましたが、婚約を解消されるほどのことはしておりません!」

「……ああ。そのために、お前たちをここに呼んだ。なにがあったか、詳しく説明しろ」

 重い口調に、けれどブラッドは安堵していた。ちゃんと言い分を聞いてくれることが嬉しくて、ブラッドはあの日の──カミラの誕生日当日のことを詳しく話した。

 それに黙って耳を傾けていたデルーカ子爵は、後ろに控えていた使用人たちにも、一人一人、説明を求めた。

 ブラッドと違い、ありのまますべてを語る使用人たちに口を挟もうとするも、デルーカ子爵がそれを許さなかった。が。すべて語られたところで、デルーカ子爵が婚約解消に応じるわけがないと信じて疑わないブラッドは、余計なことをと心の中で毒づきながらも、使用人たちの言葉を遮ることは諦め、大人しく待つことにした。


 全員の話を聞き終えたデルーカ子爵は、机の上で手を組み、深いため息をついた。


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