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 とにかく、二人でじっくり話し合いを。そうハウエルズ公爵に告げられたフェリシアとクライブはいま、応接室に二人きりだった。

「記憶をなくしていたときのこと、覚えているんですか?」

「……覚えている、から。きみへの罪悪感で押し潰されそうだ」

 ずん。音がしそうなほど肩を落とすクライブに、フェリシアはさらっとこう告げた。

「もういいんですよ。リサ様と瓜二つの聖女デリアに惹かれて信じてしまったことは、仕方のないことですから」

 ぐさっ。心臓に言葉の矢を指されたクライブは「……怒っている、よね」と訊ねたが、フェリシアは心底不思議そうに、いいえ、と首を傾げた。

「そんなこと、どうでもいいです。クライブ殿下が無事で、本当に良かった」

「……本当に?」

「もちろんです」

「わたしとの結婚は、嫌ではない?」

「はい。公爵令嬢として、立派につとめは果たします」

 ぐっと言葉に詰まりながらも、クライブは声のトーンを落とし、呟いた。

「……記憶が戻ったとき、誰よりもフェリシアに会いたくて、たまらなかった」

 ──それは、罪悪感からくるものでしょう。

 喉まで出かかった言葉を、呑み込む。

「……今日、喫茶店でセオドア様とお会いしまして。少しだけお話させてもらったんです」

「……セオドア?」

「はい。あまりこういったことは他言しないほうがよいのでしょうけど……セオドア様の婚約者様には別の恋人がいまして。セオドア様は、そこが楽でいいとおっしゃっていました。もしかしたらクライブ殿下も、そうなのではないですか?」

「……どういう」

「クライブ殿下と同じく、わたしにも他に愛する方ができれば、リサ様を忘れられない罪悪感に苛まれることもなくなるのではないかと」

 試すわけでもなく、真剣な双眸で語るフェリシア。気にしていないようで、フェリシアの中ではしっかりと、クライブに打たれたこと、かつての真二と同じ双眸を向けられたことに傷付いていた。あのときぽっきりと折れた心は、そう簡単には癒せない。ましてフェリシアに、その自覚はない。

 やっぱり自分が愛されることはないのだと、自ら、心に刻みつけてしまっていた。

 妙な方向に開き直ってしまったフェリシアに、クライブが「……気になる人でもいるの?」と、掠れた声を出した。

「やっぱり、その方がよいのですね。大丈夫です。この国には、素敵な方がたくさんいますから。わたしに相思相愛は無理でも、片想いならできますから」

「……嫌だ」

 もれ出た言葉を、クライブはもう一度、はっきり繰り返した。

「……ごめん。勝手だとわかっているけど、それは嫌だ」

 真っ直ぐに、フェリシアを見詰める。フェリシアは数秒のち、わかりました、と頷いた。

「よく考えなくても、おかしな提案でした。忘れてください。わたし、どうかしてましたね」

「……きみを愛してるから、嫌だと言ったんだ。それは伝わってる?」

 これにフェリシアは、斜め上に視線を向けてから、はい、と答えた。

 ──絶対伝わってない。

 この日から、クライブの苦戦の日々がはじまった。

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