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 同じようにセオドアの存在に気付いた女子生徒たちが、静かにどよめく。あの男もいずれあたしに惚れるのよ。ドヤ顔をしていると、見覚えのある、悪役令嬢を視界の先に捉えた。

(フェリシア・ハウエルズ。あたしにも引けを取らない美少女。でも、あたしになにもかもくれる、憐れな悪役令嬢)

 口元を手でおさえ、笑いをこらえる。挨拶を終えたクライブが、フェリシアの元に駆け寄ったのは少し意外だったが、いまはまだ、正当な婚約者はあの子だしなあと、余裕をかましていた。


 
 テッドは子爵令息で、デリアは使用人という立場ではあったが、与えられた部屋のグレードに差はなく、デリアは一人、バルコニーに立つ。

 クライブがこちらを意識しているのは明らか。テッドは変わらず好意が丸わかりだったし、デリアはご機嫌だった。イアンとティモシー、セオドアに関しては、まあこれからねと、夜空に口笛を吹く。

 けれど。
 
 一週間経っても、あの悪役令嬢は虐めるどころか、接触すらしてこず。セオドアとは一度も会えず、クライブもイアンも、意識していないわけないのに、全然話しかけてこない。どころか、悪役令嬢と一緒に昼食はとるわ、放課後に自ら迎えに行くわ。馬鹿じゃないのと、デリアは苛ついていた。

 ティモシーは誰にも平等に優しく。予定通りの行動をしてくれるのは、テッドだけ。

 まだ一週間。されど、一週間。ちやほやされるために、嫌いな勉強をこれまで必死に頑張ってきた。いずれ聖女となるあたしには必要ないとわかっていながら、それでも特待生となるために努力したのに。

 図書室から教室へ向かう途中。姿は見えないが、踊り場を挟んだ先で、なにやら男女の会話が聞こえてきた。と思ったら、階段下に悪役令嬢が現れた。やっときた。心を震わせたのに、そいつは踵を返した。

「……はあ?」

 なにあいつ。追いかけるように階段を下ると、セオドアがいた。ようやく会えたと感激したかったが、悪役令嬢がなぜかセオドアに抱き抱えられていて、ぴしっと血管が浮いた気がした。

 悪役令嬢に罵倒するでもなく、こちらに関心も示さないセオドアに、早く行けと告げられた。

 ──相手、間違えてない?

 吐き出しそうになったが、なんとかこらえた。男に媚びる、俯いたままの悪役令嬢がとにかく憎くて、横を通り過ぎる瞬間、睨んでやった。僅かにびくつく気配がして、なにこいつ、と更に腹が立った。

(前世の世界だったら、間違いなく、虐められる側じゃない?)

 ゲームの世界ではあるけど、ストーリー通りには進まない。こんな奴に任していたら駄目だと、デリアは行動を起こすことにした。

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