乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした。

 彩香はずっと、容姿が優れている幼なじみの佳奈に、好きな人を奪われ続けてきた。親にすら愛されなかった彩香を、はじめて愛してくれた真二でさえ、佳奈に奪われてしまう。

 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。

 人間不信になった彩香は、それきり誰と恋することなく、人生を終える。



 彩香だった前世をふっと思い出したのは、フェリシアが十二歳になったとき。

 ここがかつてプレイした乙女ゲームの世界で、自身がヒロインを虐める悪役令嬢だと認識したフェリシア。五人の攻略対象者にとことん憎まれ、婚約者のクライブ王子にいずれ婚約破棄される運命だと悟ったフェリシアは、一人で生きていく力を身につけようとする。けれど、予想外にも優しくされ、愚かにも、クライブに徐々に惹かれていく。

 ヒロインを虐めなければ、このままクライブと幸せになる未来があるのではないか。そんな馬鹿な期待を抱きはじめた中、迎えた王立学園の入学式の日。

 
 特待生の証である、黒い制服を身に包んだヒロイン。振り返った黒髪の女性。


 その顔は。

「……佳奈?」

 呟いた声は、驚くほど掠れていた。



 凍り付いたように固まる。足が地面に張り付き、動けなくなる。

「……な、んで」

 驚愕の声はフェリシアではなく、なんとクライブのものだった。

 クライブの緑の瞳が、真っ直ぐに、ヒロイン──佳奈に注がれる。

「……い、いや」

 無意識に吐露し、クライブに手を伸ばす。クライブはその手をするりとかわし、佳奈に向かって走っていった。

(……また、佳奈に奪われる)

 ヒロインに、なにもかも奪われる。その覚悟はしていた。でも、よりによって佳奈に──なんて。

 フェリシアは伸ばした手を引っ込め、だらんと下げた。


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