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「……わたし、あなたの言っていた通りでした……苦労しらずで、甘えることしか脳のない……ほんと、そうですね……だって、あれだけのことでもう……あなたが怖くて目も合わせられない……」

 こ、このくそ女! 
 叫んでしまいたかったが、ヘクターはぐっと堪えた。

(……いまその言葉を繰り返す馬鹿がいるか?!)

「あ、あれはきみが羨ましくて……本心ではなかったんだ!!」

(わかれよ! いまお前がぼくを庇わなかったら、どんな目に遭わされるか……っっ)

「──存外、貴様は思っていることが顔に出やすいタイプようだな」

「ええ。そのようですね」

 ユーインとパトリスが静かに呟く。顔に出やすいなど、言われたのははじめてで。ヘクターは目を丸くした。

「……あ、あの」

「あなた、わたくしとローナとの関係を問うたさい、それをネタに脅迫できるのではないかと考えていましたわよね?」

「ほう。確か、わたしとローナの関係を説明したときも、そのような表情をしていたな」

「い、言いがかりです……っ」

 そうか。ユーインは、どうでもいいことのように呟いた。

「貴様の運命は、ローナに脅迫と暴力をふるった時点で、決まっていた。だからまあ、それぐらいは認めてやってもよいかな?」

「……う、運命、とは」

 パトリスに「あなたはどうなると思います?」と訊ねられたヘクターは、目を伏せた。

「……ぼくは、貴族では、なくなるのでしょうか……」

 ──ああ。ニコリッチ侯爵家は、終わりだ。

 と、思っていたのだが。


「あら。平民として、自由に暮らせるとでも?」
 
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