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「怯えている? 何に?」

 いぶかしむように、ユーインが眉をひそめる。パトリスは「おそろくは、ヘクター・ニコリッチに」と、答えた。

「……何だと?」

 ユーインが口調を強める。ヘクターは内心、笑いそうになっていたが、冷静を装い「どういう意味ですか?」と、パトリスに訊ねてみた。

 パトリスは侮蔑の眼差しをヘクターに向けた。

「──何を勘違いしているのかは知りませんが。心の内で笑っているのが、透けて見えていますよ」

「……え?」

「あなたに肩に手を置かれただけで、ローナは全身を強張らせ、恐怖に顔を歪ませていました──いったいあなたは、何をしたのですか?」

「……何故、ぼくが原因とお考えになるのですか。言ったでしょう。ローナは体調がすぐれなかったと。きっとそれらは、身体が辛くて」

 パトリスはヘクターの言い分を最後まで聞くことなく、続けて質問をした。

「なるほど。ローナはお腹を痛めているようですが、それにかんしてはどうですか?」

「そうなのですか? それは気付きませんでした。ごめんね、ローナ」

 パトリスの背に隠れるように立っていたローナに、一歩、ヘクターが近付く。ローナは小さく悲鳴をあげたかと思うと、ユーインに駆け寄った。


「…………お兄様っ!」

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