全てをわたしの責任にして、わたしとの婚約を破棄したかったようですが……。

ふまさ

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「パトリスです。入ってもよろしいですか?」

 パトリスの問いに、扉の中から「ああ」との返事が聞こえた。パトリスが「失礼します」と扉を開けると、部屋の奥にある椅子に座る人物が、机に手をつき、立ち上がるのが見えた。

「パトリス、早かったな。資料は机に置いておいてくれ。仕事も一段落したし、今日はもう──」

 パトリスの隣に立つローナと、後ろに立つヘクターに気付いたユーインが、目を見張った。ユーインのそばに立つ、側近のデールも、同じ双眸をしていた。

「──資料を取りに、図書室に行っていたのではなかったのか? 見たところ、資料も持ってはいないようだが」

 ユーインの質問に、パトリスは、実は、と口火を切った。

「廊下で、ローナとすれ違ったときに、いつもとは違って表情が暗く、声をかけました。何かにひどく怯えているような気がして」

 ぎょっとしたのは、ヘクターだ。こいつはいったい、何を言い出しのかと。

(……いや、もしかして)

 ヘクターは、とある可能性に思い至った。パトリスはヘクターが知るより前から、ユーインとローナの密会を知っていたのではないだろうか。

 それをこの場で断罪しようと?
 優しく接していたのは、この生徒会室に来るまで、ローナが逃げないように、油断させるため?

(ローナが怯えていたのは、それを婚約者のぼくに知られてしまったからだと考えたんじゃないか……?)

 ヘクターは、にやりと口角をあげた。


 ──それはそれで、面白い。


 
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