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 ふっ。
 ローナの意識が、目覚めた。ぼんやりする思考の中、天井を見上げる。

「大丈夫かい? ローナ」

 声のした方に顔を向ける。寝台のすぐそばに立っていたのは、心配そうな顔でローナを見下ろす、ヘクターだった。

 一瞬。ローナは、大丈夫だと答えそうになった。けれどすぐに醜く歪んだヘクターの表情を思い出したローナは、声にならない悲鳴をあげ、上体を起こそうとした。だが、お腹がずきりと痛み、寝台にうずくまった。

「どうしたのですか? どこか怪我でも……」

 ヘクターの背後から男性の声がした。痛むお腹をおさえながら顔を何とかあげると、そこには、学園在住の医師がいた。

(……ここは、学園の医務室?)

 窓から差し込む光は、まだほんのり赤い。あれから、それほど時間は経っていないようだ。

「……あ、あの──っ」

 ローナの様子を近くで確認しようと、ヘクターの前に出てきた医師に話しかけようとしたローナだったが、ヘクターに刺すような視線を向けられ、咄嗟に口を閉ざした。

「? はい、何でしょう」

「……い、いえ。何でもありません」

「そう、ですか? でも……」

 ローナの様子がおかしいことに、医師も気づいた。けれど。

「後は婚約者のぼくにお任せください、先生」

「ですが……」

「このあと、会議があると言っていたではありませんか。ローナはぼくが、責任を持って屋敷まで送りとどけますので、ご安心を。うちにも、お抱えの医師はいますしね」

 というヘクターの言葉に、医師は「そうですか……」と答え、ではお大事にと、医務室を出ていってしまった。

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