婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

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 頭痛がしてきたエリカは頭に手を当て、あの、と小さく呟いた。バージルが不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの? さあ、抱き締めてあげるから、おいでよ」

「……カステロ伯爵から、なにも聞かされていないのですか?」

「え? いや、父上たちとは、あれからほとんど口をきいてなくて……」

「……そうでしたか。カステロ伯爵も、夫人も、まさかあなたがこんな行動をするとは予想もできなかったでしょうから、仕方ないですね」

 エリカは、ふう、と息をつき、真っ直ぐにバージルを見据えた。

「わたしには、つい先日交際をはじめたばかりの恋人がいます。ですので、あなたとお付き合いはできません」

 もし恋人の存在がなかったとしても、復縁などあり得なかったが、あえてそれは口にしなかった。そもそもそんなこと、考えなくてもわかりそうなものだが、どうやらバージルはそうではないらしい。

(こんなにも可笑しな男だったなんて、思わなかった……)

 あのまま結婚していたかと思うと、ぞっとする。胸中でぼやきながら、バージルの反応を見る。バージルは、驚愕の表情を浮かべていた。

「女性としての魅力がないわたしに恋人ができるわけない。そう思っていましたか?」

「……ち、ちがっ。そうじゃなくて……だって、僕たちが別れてからそんなに日も経ってないし、きみが男性といるところなんて、見たことなかったから……」

「学園の方ではないですから」

「だ、誰と」

「メンデス辺境伯の弟──クラーク様です」

 バージルは目を見開いた。

「……な、どうしてっ」

「わたしに対し、とても申し訳なく思ったアルマ様が、紹介してくださったのです。クラーク様はとても誠実な方なので、もしよければ一度、会ってみてはどうかと」

「それで交際をはじめたのか? こんなに早く?」

 責めるような口調に怒りを覚えたが、エリカはそれを綺麗に隠した。

「あなたには関係のないことです。それより、わたしからあなたに提案があるのですが……バージル?」

 よほどショックだったのか、バージルは口を半開きにして呆然としていた。どうやら本気で復縁ができると思い込んでいたようだ。


 エリカは心の底から、呆れた。

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