婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

文字の大きさ
上 下
8 / 13

8

しおりを挟む
 両家の話し合いの中で、マリアーノ伯爵はむろんのこと、カステロ伯爵夫妻にも、烈火のごとく怒鳴られたバージル。
 
 エリカは、必要なことを告げたあと「これであなたとわたしは他人ですので、お互い、話しかけるのは止めましょう」と言い捨て、さっさとマリアーノ伯爵の屋敷に帰っていってしまった。

 アルマも、深夜に起こった出来事を証言したあと、バージルを振り返ることなく、エリカと一緒にマリアーノ伯爵の屋敷に行ってしまった。

 残されたバージルを庇う者は、誰もいない。散々怒鳴られ続けたあと、バージルはひと月、自室での謹慎処分を命じられた。



 謹慎処分がとけたあと。

 半ば追い出されるかたちで、王立学園に登校したバージル。何もかもを失ったうえ、約束されていた将来さえ無くなってしまったバージルは、無気力になっていた。

 エリカと廊下ですれ違うことはあっても、決して目を合わせてくれず、まるで最初から他人だったように、存在を無視された。

 もしかして、という想像をしていたぶん。ずっと、心のダメージは大きかった。

『あなたは同じ条件で、魅力的な令嬢と婚約し直せる機会を得たのですよ?』

 吐き捨てられた言葉が頭をまわる。確かに、それも一理あると思いながらも、気分は塞ぎ込んだまま。

「……本当に、姉上以外の女性を愛せるのかな」

 そもそも。条件が良い令嬢は、とっくに婚約している。学園に通う年齢の令嬢なら、なおさら。

(……父上は、もう、僕の婚約者を探す気はないみたいだし)

 無理だ。覚悟を決め、貴族の令息に相応しい職業につくことを考えなければ。わかってはいるのだが、バージルは勉学がさして得意ではなく、剣の腕もないため、それは限られてくる。

「……もっとよく考えて行動すればよかった」

 いかに自分が恵まれていたか。身をもって知ったバージル。そんなバージルがとある子爵令嬢に告白されたのは、それから半月ほど経ったころのこと。



「……え?」

「あたし、バージル様のこと、ずっといいなって思ってて。そしたら、エリカ様と別れられたって聞いて、居てもたってもいられなくて」

 放課後。校舎裏に呼び出されたと思ったら、初対面の相手に告白をされた。同じ年の彼女は、年よりさらに幼く見え、年上好きのバージルからすれば、好みからは遠くかけ離れていて。

 でも。

「……きみに、男兄弟はいるの?」

「いえ、いません」

「きみは長女、だったりする?」

「はい。ですから、その……もしあたしと結婚すれば、バージル様には、将来、あたしのお父様の後を継いでもらうことにはなってしまうのですが」

 これは、神が与えてくれた最後のチャンスではないか。そう考えたバージルは、それを逃すまいと、その場で告白の返事をした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

処理中です...