婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

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「夜明けと共に、お屋敷に戻り、お父様とまたここに来ます。カステロ伯爵を交え、婚約について、話し合いをしましょう」

 淡々と告げるエリカに、これは本気だと悟ったバージルは慌てて声を上げた。

「わ、わかった。僕が言い過ぎたよ。ありのままのきみを好きになれるように、頑張るから」

「バージル。もう頑張らなくていいのですよ。これまで不快な思いをさせて、申し訳ありませんでした」

「ふ、不快だなんて一言も言ってないだろう?!」

「そうでしたか? まあ、どちらにせよ、もうどうでもいい話しでしたね」

「……っ。どうでもいいだなんて言うな!」

「こんなに必死なあなたははじめて見ました。性的対象として見れないわたしと別れられて、あなたもほっとしたのではないですか? それとも、それほどまでに爵位と財産が欲しかったのですか?」

「ち、違う! 言っただろう? 僕は、きみと別れたいわけじゃないんだ!!」

「爵位と財産が目当てで、ですね」

「そ、それだけじゃない!」

「ああ。アルマ様が認めてくれたわたしだから、でしたっけ?」

 刺すような視線と、冷たい声色に、バージルの顔からどんどん血の気が引いていく。バージルも、こんなエリカを見るのは、はじめだった。バージルに悪気はない。ただ、本音を言った。それだけだ。だが、愛されているという自覚があったからこそ、言えたことでもある。

「なにも迷う必要なんかありませんよ。アルマ様以外にも、きっと、魅力的な女性はいます。ただ、わたしがそうでなかっただけ。本当にごめんなさい」

 口角を上げるエリカの双眸は、ちっとも笑っていない。それが余計、恐ろしかった。

「……わ、悪かったよ。謝るから」

「謝罪はいりません。利害が一致しないから、別れる。ただ、それだけのことです。あなたは同じ条件で、魅力的な令嬢と婚約し直せる機会を得たのですよ? もっと喜んでくださいな」

 これ以上なにを言っても無駄だと感じたバージルは、助けを求めるようにアルマに視線を移した。

「あねう──っっ」

 アルマは、見たことのない、汚物を見るかのような目で、バージルを見ていた。

 なぜ。どうして。

 がくっ。崩れ落ちたバージルが、床に膝をつく。

 大丈夫ですか?

 エリカの声が聞こえた気がして、バージルは勢いよく顔を上げた。

 でも、エリカはすでに背を向け、アルマとなにやら言葉を交わしていた。

(…………あ)

 それは、アルマからはじめて向けられた目線と同じぐらい、ショックで。

 エリカを、アルマと同じぐらい愛していたわけではない。

 ただ。


 好意にあがらをかいていた、かもしれないことと同時に、それを失ってしまったことにはじめて気付いたバージルは、愕然とした。

 
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