婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

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「いえ、姉上。これはとても重要なことです。いずれ爵位を継ぐ身として、跡継ぎは、絶対につくらなくてはなりません。そうでしょう?」  

「……止めて! 止めて!」

 喚くアルマからエリカに視線を移したバージルは、言い辛そうにしつつ、こう言い放った。

「ねえ、エリカ。どうか、姉上を見習って、少しは自分を磨く努力をしてくれないかな。そうすれば、僕もきっと、きみを性的対象として見られるようになるから」

「…………」

 黙り込み、俯くエリカ。バージルは、仕方ないなと、肩を竦めてみせた。

「どうしたの? ああ、少しきつく言い過ぎてしまったかな。でも、本当のことだから仕方ないよね。将来のためにも、いずれは言っておかなければならないことだったし。爵位を継ぐことなんてなければ、子どももつくらなくてよかったんだろうけど……きみの家には、男がいないしね」

 それでも反応がないエリカの顔を覗き込み、バージルは、やれやれと両手を広げた。

「子どものきみは、機嫌を損ねてしまったかな。ほら、抱き締めてあげるからおいでよ。それとも、口付けがいいかな。きみは、僕のことが大好きだからね」


「──いい加減にしなさいっっ!!」


 耐えきれなくなったのか。涙を浮かべたアルマが、バージルの頬を平手で叩いた。力の限り、思い切り。

 バージルは、どうして殴られたのかわからないの同時に、大好きな姉に打たれたことで、ぽかんとしていた。アルマが、はあはあと息を荒くする。

「あ、あなた……自分がどれだけ酷いことを言っているのか、自覚はあるの?!」

「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」

 ──ああ。そんな風に思われていたのか。

 エリカは胸中で呟くと、前に立つアルマの肩にそっと手を置いた。振り向くアルマに、小さく微笑む。

「よいのです、アルマ様。ありがとうございました」

「……エ、エリカ。あたし、なんて詫びればいいか……っ」

「いいえ。あなたはなにも悪くないのですから、謝罪なんて、必要ありませんよ」

 二人の会話に、バージルは、ぱっと顔を輝かせた。

「やっぱり。姉上が気に入ったきみなら、きっと理解してくれると信じていたよ。話してよかった。僕も頑張るから、きみも努力して、少しでも姉上に近付けるようにしてほしいな。そしたらきっと、夜の営みもできるようになるさ」

 にこにこと、バージルは満足したように、笑みを浮かべた。


 
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