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「──姉上! 戻られていたのですね」

 王都にある、カステロ伯爵の屋敷。今日はバージルの家族との晩餐の約束があったため、バージルと共に、王立学園から一緒に帰宅してきたエリカ。バージルが応接室の扉を開けると、そこには、バージルの実の姉である、アルマがいた。椅子に座り、にっこりと上品に笑う。

「ふふ。久しぶりね、バージル。エリカも、会えて嬉しいわ」

 三歳年上のアルマは、一年前、メンデス辺境伯に嫁いだ。アルマが住む屋敷は、王都から馬車で十日以上もかかるため、そう頻繁には会えない。アルマがメンデス辺境伯に嫁いでから、顔を合わせたのはこれがはじめてだった。

「はい。わたしも嬉しいです」

 そう返すエリカは、内心、複雑だった。アルマのことは、嫌いではない。どころか、本当の姉のように慕う気持ちすらある。

 ──でも。

「今回は、いつまでこちらに居られるのですか?」

 溢れんばかりの、バージルの笑顔。これで本当に、誰も気付いていないのだろうか。毎回、不思議で仕方がない。

「夫の代わりに、王宮に使いに来ただけだから。それでも久しぶりの実家だろうから、せめて一日はゆっくりしてきなさいとおっしゃってくださったので、明後日の朝、立つつもりよ」

「それは、タイミングが良かったです。明日はちょうど、学園がお休みですから。一日、一緒にいれますね」

「バージルは本当に、甘えん坊さんね。そんなんじゃ、エリカに笑われるわよ?」

 冗談のつもりなのだろうが、エリカは笑えない。他のみなは、ここにいるカステロ伯爵夫人も、使用人も朗らかに笑っているが、エリカの笑顔は引き攣っている。

(……どうして誰も気付かないんだろう)

 バージルの双眸は、アルマを熱っぽく捉えている。それは、異性を見るそれだ。姉に向けるものではない。果たして、バージルにその自覚があるのかは、いまだにわからないが。

「そう言えば、お兄様は?」

「地方にある、婚約者のお屋敷に行っているわ。こちらは、タイミングが悪かったわね」

 向かい合うアルマとカステロ伯爵夫人の会話に、バージルが静かに耳を傾ける。エリカにはそれが、アルマの声を一言も聞きもらすまいとしているように見えて。

(考え、すぎかな……)
 
 いや。そもそもがすべて、エリカの勘違いという可能性も、なくはない。だって、なにも確認していないのだから。バージルはただ純粋に、姉として、アルマを慕っているのかもしれない。

(だとすれば、失礼なのはわたしの方よね)

 どちらにせよ、確かめるつもりはない。意味がないから。答えがどうであれ、バージルと結婚することに、かわりはない。



 だって、アルマはバージルの実の姉で。すでに、別の人と結婚しているのだから。


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