婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

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 あなたは、決して叶うことのない恋をしている。ことを、わたしは知っている。

 叶うことがないのなら、いつか、わたしがあなたの一番になれる日がくるんじゃないか、なんて。

 想っていた。信じていた。

 馬鹿みたいね。



 ♢♢♢♢♢



 マリアーノ伯爵家の長女として生まれたエリカには、二人の妹がいる。伯爵家の長女として、厳しくしつけられてきたエリカが甘えられるのは、婚約者のバージル・カステロだけ。

 バージルが他の人を想っていることに気付いたのは、婚約して数年経ってからのこと。けれど、それは決して叶わぬものだったし、バージルは優しかったから、それでもかまわなかった。寂しくもあるし、ふいに泣きたくなることもあったけど、それでも、バージルを愛していたから。

 自分を磨き続ければ、いつかきっと、一番になれるはず。そう信じて、一緒のときを過ごしていた。

 バージルとの出会いは、マリアーノ伯爵が開いた、エリカの誕生日会のとき。十歳になったエリカの婚約者候補として、エリカと近い年頃の長男以外の令息が、何人か招待されていた。バージルはその中の一人だった。

 マリアーノ伯爵家に、男児はいない。つまり、長女のエリカと結婚することができれば、いずれ、爵位が継げる。長男以外の貴族の男は、成人すれば、家を追い出されてしまう。婿養子として爵位を継ぐことができなければ、財産もなく、自力で、しかも貴族令息として相応しい職業につかなければならない。

 だから、どの令息も、エリカへのアプローチは必死だった。むろん、その親も同様に。

 笑顔で対応するも、エリカは少々、うんざりしていた。そんな中、バージルは、とても落ち着いていた。余裕があるというか。エリカにはそれが、とても大人びて見えたのだ。

 いま思えば、そのときすでに、バージルには想い人がいた。だからこその対応だったのだろうが、そのときのエリカに、それがわかるはずもなく。


 バージルと出会ってから五年ほどの月日が経ったが、エリカは、バージルが怒ったり哀しんだりしたところをほとんど見たことがない。いつも、穏やかな笑みをたたえている。

 エリカが男の人と一対一で話していようと、表情を変えない。焦らない。あるいはそれは、信じてくれている証拠なのかもしれないが、少しでもいいから、妬いてほしいという願いはあった。たとえ一番ではなくても、愛されているという証がほしかったから。

 エリカは、バージルが女性と話しているだけで、胸がもやっとするのを感じていたから、同じであってほしかった。


 そんなバージルの感情が、表情が動くのは、唯一、バージルの想い人が目の前に現れたときだ。

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