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 父親と母親の顔は、本当に酷かった。あれが人の怨念の塊だとするならば、いったいどれほどの人間を理不尽に傷付け、恨みをかったのか。想像することすら、ぞっとした。

 オーエンの言葉には、何一つ、証拠がない。それでも、どうしてもこれまでの話しが嘘だとは、思えなかった。

(……セシリー嬢)

 出逢った王族の中で、唯一、人の顔をしていた。対話してみて、優しい子だと感じた。

『わたしの顔は醜く、美しくありません』

 自分自身のことを、そんな哀しい言葉で、当たり前のように評したセシリー。きっと小さな頃から、そう言われ続けてきたのだろう。

(……セシリー嬢に逢いたいな)

 サイラスは思った。本当は、ずっと。けれど、父親の許しを得ていない状態では、逢えないから。直接出向いても、手紙を送っても、あの化け物の家族の機嫌を損ねてしまうと、セシリーを哀しませてしまうから。

「……オーエン。あの魔法は、心が美しければ、顔も美しく見えるものだったのか?」

「いいえ。あの魔法に、そんな効果はありません。どこも崩れることなく、人の顔に見えていたのなら、それはその方本来の顔ですよ」

 柔く、オーエンが語る。サイラスの質問の意図を察したように。

「……そうか」

 サイラスは、ほら、と。脳裏に浮かぶセシリーに笑った。確かにきみは王族特有の美しさはないかもしれない。でも決して、醜くなどない。

 現に、わたしは──。

「──サイラス殿下。ご決断を。もうあまり、時間がありません。あなた以上に王に相応しい方などいない。そのあなたが王を拒むというのなら、別の作戦を練らなくてはならなくなります」

 別の作戦。それは、王族を皆殺しにするという案もあるのではないか。サイラスはそんなことを思いながら、ゆるりと立ち上がった。

「なあ、オーエン。どうしてわたしに魔法をかけた?」

 オーエンが「それは、先ほど話した通りですが」と小首を傾げる。

「それも本当だろうが、もう一つの理由があるのではないか? 何せ、間接的とはいえ、お前の最愛の息子を死なせたのは、わたしだからな」

「…………」

 サイラスは「お前の心は、少しは晴れたのだろうか」と、真っ直ぐにオーエンを見つめた。

 オーエンは答えず、ただ、そっと目を伏せ──口元に笑みを浮かべた。

「一つだけ。謝罪しておかなければならないことがありました」

「……魔法をかけたことか?」

「いいえ。サイラス殿下の目のぼやけ、視力低下は一時的なもので、それが治ったのは、そのタイミングに合わせてわたしが魔法をかけたにすぎません」

「……なっ」

「治癒能力など、私にはありませんので──それで、あなたの答えは?」

 オーエンが口角をあげる。サイラスの返答を見透かすように。


「わたしは──」


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