19 / 25
19
しおりを挟む
──三ヶ月半前。
セシリーに婚約を申し込んだその足で、サイラスは父親の元に向かった。むろん、セシリーとの婚約を正式に認めてもらうためだ。だが、セシリーの不安は的中し、父親は決して首を縦にふろうとはしなかった。
「何故ですか? セシリー嬢は王族です。反対する理由がわかりません。早く婚約者を決めろと急かしたのは、父上ではありませんか?」
相変わらず化け物に見える父親に、それでもサイラスは青い顔をしながら必死に食らいつく。父親は、大きくため息をついた。
「お前は呪いにかかっているからわからないかもしれないが、あの者は醜い。民も、あれが王妃だとは認めてくれんだろう」
サイラスの片眉がぴくりと動く。
「……そうでしょうか」
サイラスは心から疑問だった。真に民が望むのは、顔だけが美しい者などではなく、セシリーのような──。
「とにかく、あれはいかん。そうだ。姉のカミラ嬢はどうだ? あの令嬢なら大歓迎だ」
ぎゅっ。サイラスが怒りにこぶしを握る。それでもサイラスは諦めなかった。毎日のように父親を訪ね、説得を試みた。
──そんなある日。
いつものように、父親の崩れた顔をずっと直視することが出来ずにすっと目を逸らし。また意を決して目を合わせようとしたとき──父親の顔が、人間の顔に戻っていた。思い出の中にある、父親の顔と同じ。
ぽかんと父親を見つめる。その様子に気付いた父親がどうしたと語りかけてきた。サイラスは目をごしごしと擦ってから、
「……呪いが、解けた……?」
絞り出すように掠れた声を出した。父親は、ぱあっと「本当か?!」と目を輝かせた。
「……おそらく」
まだ信じられないといった風のサイラスに対し、父親は歓喜した。
「これでセシリー嬢と婚約する必要もなくなったな!」
「……え? どうして……」
「どうしても何もないだろう。まだ頭が混乱しているようだな。仕方ない。とりあえず今日は、部屋に戻って休め。これからのことは、明日話そうではないか」
混乱しているのは確かだったので、サイラスは、はい、とゆっくり席を立ち、おぼつかない足取りでその場を後にした。
セシリーに婚約を申し込んだその足で、サイラスは父親の元に向かった。むろん、セシリーとの婚約を正式に認めてもらうためだ。だが、セシリーの不安は的中し、父親は決して首を縦にふろうとはしなかった。
「何故ですか? セシリー嬢は王族です。反対する理由がわかりません。早く婚約者を決めろと急かしたのは、父上ではありませんか?」
相変わらず化け物に見える父親に、それでもサイラスは青い顔をしながら必死に食らいつく。父親は、大きくため息をついた。
「お前は呪いにかかっているからわからないかもしれないが、あの者は醜い。民も、あれが王妃だとは認めてくれんだろう」
サイラスの片眉がぴくりと動く。
「……そうでしょうか」
サイラスは心から疑問だった。真に民が望むのは、顔だけが美しい者などではなく、セシリーのような──。
「とにかく、あれはいかん。そうだ。姉のカミラ嬢はどうだ? あの令嬢なら大歓迎だ」
ぎゅっ。サイラスが怒りにこぶしを握る。それでもサイラスは諦めなかった。毎日のように父親を訪ね、説得を試みた。
──そんなある日。
いつものように、父親の崩れた顔をずっと直視することが出来ずにすっと目を逸らし。また意を決して目を合わせようとしたとき──父親の顔が、人間の顔に戻っていた。思い出の中にある、父親の顔と同じ。
ぽかんと父親を見つめる。その様子に気付いた父親がどうしたと語りかけてきた。サイラスは目をごしごしと擦ってから、
「……呪いが、解けた……?」
絞り出すように掠れた声を出した。父親は、ぱあっと「本当か?!」と目を輝かせた。
「……おそらく」
まだ信じられないといった風のサイラスに対し、父親は歓喜した。
「これでセシリー嬢と婚約する必要もなくなったな!」
「……え? どうして……」
「どうしても何もないだろう。まだ頭が混乱しているようだな。仕方ない。とりあえず今日は、部屋に戻って休め。これからのことは、明日話そうではないか」
混乱しているのは確かだったので、サイラスは、はい、とゆっくり席を立ち、おぼつかない足取りでその場を後にした。
116
お気に入りに追加
4,871
あなたにおすすめの小説
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
完 あの、なんのことでしょうか。
水鳥楓椛
恋愛
私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。
よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。
それなのに………、
「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」
王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。
「あの………、なんのことでしょうか?」
あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。
「私、彼と婚約していたの?」
私の疑問に、従者は首を横に振った。
(うぅー、胃がいたい)
前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。
(だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)
平民を好きになった婚約者は、私を捨てて破滅するようです
天宮有
恋愛
「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」
婚約者だった公爵令息のジェイクに、子爵令嬢の私セリスは婚約破棄を言い渡されてしまう。
ローナを平民だと見下し傷つけたと嘘の報告をされて、周囲からも避けられるようになっていた。
そんな中、家族と侯爵令息のアインだけは力になってくれて、私はローナより聖女の力が強かった。
聖女ローナの評判は悪く、徐々に私の方が聖女に相応しいと言われるようになって――ジェイクは破滅することとなっていた。
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!
山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる