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デイナと一緒に自室にいたセシリーは、ノックの音に、扉に目を向けた。思わずデイナと目線を合わせてから「はい。何でしょう」と、扉越しに語りかけてみた。
「きみは、セシリー嬢か?」
あまり耳馴染みのない声音に、セシリーが首を傾げる。
「? はい、そうですが……あなたは?」
「……ああ、そうだな。すまない。わたしは──」
サイラスが名乗る前に、階段を駆けあがってきたカミラが「サイラス殿下!」と、名を叫んだ。
(……え? サ、サイラス殿下?)
慌てて扉を開けるセシリー。目の前には確かに、昨日会ったばかりのサイラスがいた。
「サイラス殿下……? えと、何か……?」
嫌な予感しかしないセシリーが声をすぼめ、後ろに控えるデイナが、サイラスに鋭い視線を向ける。
また皮肉でも言いにきたのか。そんな考えが脳裏を過ったのだが──。
「……近付くな」
サイラスが右のてのひらを付きだして止めたのは、セシリーではなく、カミラだった。
「わたしはセシリー嬢と、二人で話しがしたい。邪魔をするな」
カミラが目を見開く。状況を掴めないセシリーとデイナは、ただ目を丸くしていた。
「……あの。サイラス殿下は、お姉様に会いに来られたのですよね?」
セシリーが訊ねると、サイラスは頭をふった。
「いいや。きみに会いにきた。このことは予め、きみの姉にもきちんと伝えていたはずなんだがな」
昨日と同じ。青白い顔をしたサイラスが、セシリーに向き直る。
「……頼む。部屋に入れてくれないか? 早くきみと二人になりたい」
カミラが「なっ……!」と目をむく。
甘い言葉にも聞こえるそれを口にしたサイラスを、セシリーがじっと見つめる。
(……何だろう。この切羽詰まった感じ。今にも倒れそうな……)
いまここで頼みを受け入れてしまえば、カミラの機嫌を損ねてしまう。それは明らかだ。だが、相手は第一王子。逆らうことなどできない。それはカミラとて、承知しているはずだろう。
──それに何より。
理由はわからないが、こんなに憔悴しきっている相手を放っておくなんてこと、セシリーにはできなかった。
セシリーはすっと身体を横に向け「どうぞ」と右手を部屋に向けた。サイラスが安堵するように息を吐き「ありがとう」と感謝の言葉を述べながら、部屋に入る。
「……セシリーお嬢様」
心配気なデイナに「大丈夫よ。あなたは早く、自分のお部屋に戻って」と微笑みかけ、絶句するカミラをちらっと見てから、セシリーは部屋の扉を閉めた。
「きみは、セシリー嬢か?」
あまり耳馴染みのない声音に、セシリーが首を傾げる。
「? はい、そうですが……あなたは?」
「……ああ、そうだな。すまない。わたしは──」
サイラスが名乗る前に、階段を駆けあがってきたカミラが「サイラス殿下!」と、名を叫んだ。
(……え? サ、サイラス殿下?)
慌てて扉を開けるセシリー。目の前には確かに、昨日会ったばかりのサイラスがいた。
「サイラス殿下……? えと、何か……?」
嫌な予感しかしないセシリーが声をすぼめ、後ろに控えるデイナが、サイラスに鋭い視線を向ける。
また皮肉でも言いにきたのか。そんな考えが脳裏を過ったのだが──。
「……近付くな」
サイラスが右のてのひらを付きだして止めたのは、セシリーではなく、カミラだった。
「わたしはセシリー嬢と、二人で話しがしたい。邪魔をするな」
カミラが目を見開く。状況を掴めないセシリーとデイナは、ただ目を丸くしていた。
「……あの。サイラス殿下は、お姉様に会いに来られたのですよね?」
セシリーが訊ねると、サイラスは頭をふった。
「いいや。きみに会いにきた。このことは予め、きみの姉にもきちんと伝えていたはずなんだがな」
昨日と同じ。青白い顔をしたサイラスが、セシリーに向き直る。
「……頼む。部屋に入れてくれないか? 早くきみと二人になりたい」
カミラが「なっ……!」と目をむく。
甘い言葉にも聞こえるそれを口にしたサイラスを、セシリーがじっと見つめる。
(……何だろう。この切羽詰まった感じ。今にも倒れそうな……)
いまここで頼みを受け入れてしまえば、カミラの機嫌を損ねてしまう。それは明らかだ。だが、相手は第一王子。逆らうことなどできない。それはカミラとて、承知しているはずだろう。
──それに何より。
理由はわからないが、こんなに憔悴しきっている相手を放っておくなんてこと、セシリーにはできなかった。
セシリーはすっと身体を横に向け「どうぞ」と右手を部屋に向けた。サイラスが安堵するように息を吐き「ありがとう」と感謝の言葉を述べながら、部屋に入る。
「……セシリーお嬢様」
心配気なデイナに「大丈夫よ。あなたは早く、自分のお部屋に戻って」と微笑みかけ、絶句するカミラをちらっと見てから、セシリーは部屋の扉を閉めた。
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