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「あいつをここに連れてこい」

 国王が命じると、傍に控えていた兵士が、謁見の間を出て行った。かと思えば、すぐにその兵士は戻ってきた。アントンとリビーと同じように、手枷をつけられた兵士を一人連れて。

 アントンが、誰だというようにぽかんとする。対して、リビーの顔は、これ以上ないぐらい、引き攣っていた。

「どうした。演技は、もうしまいか」

 クリフが問うが、リビーは押し黙ったままだ。クリフは、構わず続けた。

「あいつに、聖女エリノアの殺害を依頼したのは、お前だな?」


「…………なっ」


 ただ一人。驚愕の声を上げたのは、アントンだけだった。他のみなは、事前に知らされていたのか。怒りや嫌悪の眼差しをリビーに集中させていた。慌ててエリノアの方に視線を向ける。エリノアの表情は、怖いほど、冷静だった。

「その見返りに、金と、自身の身体を差し出したそうだな」

 クリフが告げる事実に、アントンは、信じられない者をみるような目で、隣にいるリビーを見た。リビーは、じっと床を見詰めている。

「だが、聖女候補であるきみに、給金は出ていない。なら、その金はどこから調達したのだろうな」

「…………」

「だんまりか。なら、代わりにわたしが答えてやる。貴様は、姉である聖女エリノアの自室から金を盗み、それを依頼料とした。違うか?」

 アントンが「……っ」と、声にならない悲鳴をあげ、後退る。リビーは「違います!」と、面を勢いよく上げた。

「そこの兵士が、そう証言しただけでしょう? 他には何の証拠もない。違いますか?!」

 そう叫ぶと、リビーはアントンを睨み付けた。

「お姉ちゃんの殺害を依頼したのは、きっとアントン様です。お金だってたくさん持っているはずだし、浮気ばっかしていた女好きなんでしょう? きっと結婚で縛られたくなくて、お姉ちゃんが邪魔になって、それで殺そうとしたんです。そしてそこの兵士に、あたしがその依頼者だって嘘を言えと脅したんです!」


 一気にまくし立てて息がきれたのか、リビーは、はあはあと荒く息をした。

 
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