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「……あたし、聖女候補のリビーといいます。聖女エリノアの、妹です……」

 リビーはクリフの前まで歩いてくると、崩れ落ちるように膝をついた。

「……アントン様に無理やりここに連れてこられて、すごく怖い目に合ったのに、お姉ちゃんは、心配もしてくれません……いくら聖女だからって、ひどいと思いませんか……?」

 くすん、くすん。
 涙を袖で拭いながら、リビーが訴える。


「──怖ろしい女だな、きみは」


 降ってきた嫌悪の混じった声色に、リビーは凍りついた。機械仕掛けのように、ゆっくりと顔をあげると、氷のような、冷たい双眸とぶつかった。

「…………?」

 媚びた男に、こんな表情をされたのははじめてで。リビーはしばらく、軽いパニック状態となっていた。

 手枷を。
 クリフが命じ、兵士がリビーに手枷をつける。そのあいだもリビーは、呆然としていた。が、すぐにはっとしたように口を開いた。

「え、な、何で? アントン様はともかく、あたしは何もしてない……というか、被害者ですよ? ねえ?!」

 すかさず反論したのは、アントンだった。

「いいえ。リビーは前から、聖女の座を、私の婚約者の座を狙っていました。今回だって、喜んで私に着いてきました。私は私の存在意義を示すため、仕方なく、リビーと組んだだけです。命令に背いたことは謝罪しますが、それもすべては、国のため。そして、愛するエリノアのためにしたことです」

「よ、よくもそんなこと……っ。最初にあたしを口説いてきたのはそっちじゃない!」

「エリノアという大切な婚約者がいるのに、そんなことをするはずがないだろう」

 二人の醜い言い合いに、事情を知らない兵士たちがぽかんとする。エリノアは俯き──無意識に、クリフの服を後ろから、そっと掴んでいた。

 気付いたクリフが、エリノアの手を握る。そして、アントンとリビーに猿ぐつわをかませるように命じた。

 むがむがと、それでも口を閉じない二人に、クリフは告げた。


「アントン・ゴーサンス。聖女候補、リビー。父上がお呼びだ。謁見の間まで連行する」

 
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