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アントンが、扉の傍に立つリビーを振り返る。
「……実は、不幸が重なって、エリノアは賊に襲われかけたんだ」
「?! そ、そんなっ」
「怖かったと思う。きちんと守れなかった、私の責任だ」
そう言うと、アントンは再びエリノアに向き直った。
「本当にすまない。償いといってはなんだが、今日はずっと、きみの傍にいるよ」
エリノアは、え、と絶望の表情を上げた。アントンと、視線がぶつかる。アントンは優しく微笑んでいたが、エリノアにとってそんなもの、なんの癒しになるはずもなく。
「…………い、いやっっ」
エリノアは寝台から起き上がると、逃げるように窓から部屋を飛び出した。アントンもリビーも、それを見守っていた神官と聖女候補たちも、みなエリノアの行動が理解できず、呆然としていた。
今度こそ、殺される。殺されてしまう。
涙を流しながら、必死に走るエリノア。だが、起き抜けの身体はうまく動いてはくれず、足がもつれ、転んでしまった。早く。早く逃げないと。ポタポタと床に涙を落としながら、起き上がろうとするエリノアに、誰かが手を差し伸べてきた。
「──大丈夫?」
そのあまりに甘く、優しい声色に、エリノアは自然と手を重ねていた。力が込められ、エリノアが立つ手助けをしてくれたその青年が、きみは、と口を開きかけたそのとき。
「エリノア! 待つんだ!!」
少し離れた距離から聞こえてきた声に、エリノアは顔を強張らせた。まだ繋いだままの青年の手を強く握り、助けて、と、気付けば小さく呟いていた。
「いいよ。そのために、わたしはここに来たんだから」
「……え?」
涙で滲む視界に映る青年の顔を、エリノアはどこかで見た記憶があった。が、それはすぐに知れた。なぜなら。
「! こ、これは、クリフ殿下。どうしてこのようなところに」
アントンが、その青年の名を口にしたからだ。エリノアは青年──この国の第三王子のクリフから慌てて手を離し、震えながら膝をついた。
「……ご、ご無礼、お、お許しください……」
会話をしたことはない。だが、宮殿でひらかれるパーティーで、遠くからではあるが、何度か顔を見たことがある。あったはず、なのに。
「そんなことしなくていいよ。きみは、国の誇りであり、宝なのだから」
ほら、立って。
再び差し伸べられた手。その手を掴む前に、後ろからきたアントンによって、エリノアは強引に立たされた。
「……実は、不幸が重なって、エリノアは賊に襲われかけたんだ」
「?! そ、そんなっ」
「怖かったと思う。きちんと守れなかった、私の責任だ」
そう言うと、アントンは再びエリノアに向き直った。
「本当にすまない。償いといってはなんだが、今日はずっと、きみの傍にいるよ」
エリノアは、え、と絶望の表情を上げた。アントンと、視線がぶつかる。アントンは優しく微笑んでいたが、エリノアにとってそんなもの、なんの癒しになるはずもなく。
「…………い、いやっっ」
エリノアは寝台から起き上がると、逃げるように窓から部屋を飛び出した。アントンもリビーも、それを見守っていた神官と聖女候補たちも、みなエリノアの行動が理解できず、呆然としていた。
今度こそ、殺される。殺されてしまう。
涙を流しながら、必死に走るエリノア。だが、起き抜けの身体はうまく動いてはくれず、足がもつれ、転んでしまった。早く。早く逃げないと。ポタポタと床に涙を落としながら、起き上がろうとするエリノアに、誰かが手を差し伸べてきた。
「──大丈夫?」
そのあまりに甘く、優しい声色に、エリノアは自然と手を重ねていた。力が込められ、エリノアが立つ手助けをしてくれたその青年が、きみは、と口を開きかけたそのとき。
「エリノア! 待つんだ!!」
少し離れた距離から聞こえてきた声に、エリノアは顔を強張らせた。まだ繋いだままの青年の手を強く握り、助けて、と、気付けば小さく呟いていた。
「いいよ。そのために、わたしはここに来たんだから」
「……え?」
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「そんなことしなくていいよ。きみは、国の誇りであり、宝なのだから」
ほら、立って。
再び差し伸べられた手。その手を掴む前に、後ろからきたアントンによって、エリノアは強引に立たされた。
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