わたしはただの道具だったということですね。

ふまさ

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「あなたは、その愚痴になんて答えていたの?」

「ナ、ナタリアはそんなことしないって、いつも注意してたよ!」

「──あなたがあの母親に意見しているところなんて、見たことなかったけど……嫌われていたから、無視されていたのね。ちょっとスッキリしたわ。見下した覚えはなかったけどね」
 
「も、もちろんだよ。ナタリアがそんな、見下すなんてしないって、ぼくが一番理解してた。仕事も家事も、いつも一生懸命してくれて……いまになって、それがどれほど大変だったか、ありがたかったか、すごくよくわかった。だからきみを失いたくなくてっ」

「わたしがあなたに離縁してくれと告げられたとき、どれほど哀しくて惨めだったか、想像できる? 仮になにもかもうまくいっていたら、あなたはわたしのことなんて、思い出しもしなかった。うまくいかなくなったからやり直そうなんて、虫が良すぎるのよ」

 正論過ぎて、オーブリーが押し黙る。それでも縋ろうするオーブリーに、ナタリアは背を向けた。

「わたし、いま、幸せなの。もう邪魔しないで。さよなら」

 馬車に乗り込むナタリアに、待って、と必死に声を裏返してオーブリーが叫ぶ。門番の一人に取り押さえられ、走っていく馬車を見送ることしかできなくて、オーブリーは絶望から、ぽたぽたと地面に大量の涙を落とした。


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