上 下
26 / 33

26

しおりを挟む
 門扉の向こうに、馬車に乗り込もうとするナタリアを見つけたオーブリーは、涙声で叫んだ。

 ナタリアが反応するように、こちらを向いた。それが嬉しくて、オーブリーは駆け出した。門番によって動きは阻止されたが、オーブリーの叫びは止まらない。

「……ナタリア! ぼく、騙されていたんだ。もうあんな女と一緒にいるのはやめる。やっぱりぼくにはきみしかいないって、思い知らされたよ。勝手なことばかり言ってごめんね。ごめん……っっ」

 泣き崩れ、地面に膝をつくオーブリー。門扉の近くまで歩いてきたナタリアが、どうしますかとの門番の問いに、少しだけ待って、と軽く手を上げた。

 それを許しと捉えたのか。オーブリーは一気に語り始めた。

「きみと離縁してから、散々だったんだ。母さんには屋敷を追い出されて……従業員も次々辞めていって、貴族との取り引きもなくなって……それにさ、聞いてよ。リリアンの借金、元夫のものじゃなくて、自分が不倫をして請求されていた、慰謝料だったんだよ……ぼくは騙されていたんだ。それで……ここまで落ちてようやく気付くなんて馬鹿だけど、ぼく、ナタリアと一緒に居るの、好きだったなって。初恋を美化し過ぎて、きみを愛していないと思い込んでいただけみたいなんだ」

 オーブリーは一呼吸置いてから、きみを愛してる、と真剣な双眸で告げた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢は、友の多幸を望むのか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:534pt お気に入り:37

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

BL / 完結 24h.ポイント:2,302pt お気に入り:1,986

音消

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:0

ぼっちの学校改革計画

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:3

カラダラッパー!

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

処理中です...