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ナタリアと離縁してから、半年のときが流れた。
あれから従業員が──特に優秀な者たちが次々と辞めていき、いまでは、新たに雇った従業員の方が多く、仕事は大混乱となっている。また、最初のころは商人の妻として頑張ると張り切っていたリリアンも、徐々に体調が優れないと言う日が増えていき、近頃はめっきり仕事場に顔を見せることもなくなり、家事もほとんどしてくれなくなってしまった。
そして。
客は増えるどころか見る間に減っていき、貴族の客にいたっては、ゼロになってしまった。貴族たちはなぜか、オーブリーがどうしてナタリアと離縁したのか。その経緯も訳も知っているようで。
古くから贔屓にしてもらっていた一人の貴族夫人に。
──貴族を舐めないでくれるかしら。
と、汚物を見るような目で吐き捨てられたことがあった。ナタリアに聞いたのですかと震える声で訊ねると、鼻で笑われた。
『貴族の世界は狭いのよ』
それきりその貴族の屋敷には、出入り禁止とされてしまった。他にも複数、似たような対応をされ。そこでようやく、オーブリーは思い知った。
「……貴族との取り引きが増えたのは、単に、ぼくがナタリアと結婚して……コスタ子爵がバックにいると思われていたからだったんだ……いや……交渉の場にナタリアが出てくるようになったから……それも要因かな……なんだ、ぜんぶ、ナタリアのおかげだったんだ」
一人きりのボロアパートでぶつぶつとぼやく。体調が優れないはずのリリアンはどこかに出掛けているようで、いまはいない。珍しいことではなかったので、なにも感じない。心配もない。
ただ。
せめてご飯ぐらい作れよという怒りしかわいてこなかった。
あれから従業員が──特に優秀な者たちが次々と辞めていき、いまでは、新たに雇った従業員の方が多く、仕事は大混乱となっている。また、最初のころは商人の妻として頑張ると張り切っていたリリアンも、徐々に体調が優れないと言う日が増えていき、近頃はめっきり仕事場に顔を見せることもなくなり、家事もほとんどしてくれなくなってしまった。
そして。
客は増えるどころか見る間に減っていき、貴族の客にいたっては、ゼロになってしまった。貴族たちはなぜか、オーブリーがどうしてナタリアと離縁したのか。その経緯も訳も知っているようで。
古くから贔屓にしてもらっていた一人の貴族夫人に。
──貴族を舐めないでくれるかしら。
と、汚物を見るような目で吐き捨てられたことがあった。ナタリアに聞いたのですかと震える声で訊ねると、鼻で笑われた。
『貴族の世界は狭いのよ』
それきりその貴族の屋敷には、出入り禁止とされてしまった。他にも複数、似たような対応をされ。そこでようやく、オーブリーは思い知った。
「……貴族との取り引きが増えたのは、単に、ぼくがナタリアと結婚して……コスタ子爵がバックにいると思われていたからだったんだ……いや……交渉の場にナタリアが出てくるようになったから……それも要因かな……なんだ、ぜんぶ、ナタリアのおかげだったんだ」
一人きりのボロアパートでぶつぶつとぼやく。体調が優れないはずのリリアンはどこかに出掛けているようで、いまはいない。珍しいことではなかったので、なにも感じない。心配もない。
ただ。
せめてご飯ぐらい作れよという怒りしかわいてこなかった。
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