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「うん」

「わたし、想像力が乏しくて。アラスター様と二度と会えないとか、うまく想像できなくて。でも、あの。わたし、もう一度、アラスター様に抱き締めてほしいなって思ってます」

 アラスターが目を見張ったので、ニアはなにかまずいことを言ってしまったのだろうかと焦った。

「すみません。これじゃ答えになっていないし、気持ち悪いですよね。えと」

 目線を泳がせるニアを、アラスターはもう一度、そっと抱き締めた。

「一緒にいたいと願う人間を、気持ち悪いなんて思うわけない。それに、きみは嘘をつけない人だから、きみの言葉はとても素直に受け取れる。それがとても嬉しくて、安心するんだ」

 ありがとう。
 優しい声音に、ニアの目がまん丸になる。

 でも。

 落ち着く匂いと温もりに、微睡みの中にいるような心地よさを覚え、ニアの瞼がとろんと閉じていく。

 ずっとこうしていたい。

 じんわりと広がるこれは、なんなのだろうか。感じたことのない、この感覚は。

 答えが出ないまま、ニアは意識を手放した。





 ──七年後。

 はっ。はっ。
 女性が一人、走っていた。必死に、息を荒くしながら。

 辿り着いたのは、大きな屋敷の門の前。

 ボロボロの服装に、ぼさぼさの髪。門の前で息を整えた女性が、門番に近付いていく。

「こ、ここに、アラスターはまだいますか?!」

 二人の門番は顔を見合わせてから、眉尻を上げた。

「領主様を呼び捨てにするとは、無礼な。貴様は何者だ」

 威圧する門番に、けれどカイラは「……ああ、領主になったんですね」と、感極まったように涙を滲ませた。

「あたし、カイラといいます。アラスターの恋人です。アラスターにあたしの名を伝えてもらえれば、わかると思います」

 涙を拭い、カイラが背筋をぴんと伸ばし、門番に告げた。門番が訝しむように顔を歪める。

「……恋人だと?」

「はい。訳あって離れ離れになっていましたが、ようやくあたし、自由になれたんです。だからお願い。早くアラスターに伝えて。あたしが帰ってきたって」

 詰め寄るが、門番は納得しない。カイラは段々、苛ついてきた。

「あたしは領主の恋人なのよ? そんな態度取っていていいの? アラスターからお仕置きされるわよ!」

「領主様は結婚されているうえ、奥様をとても愛しておられる。お前の戯れ言など、誰も信じんよ」

「結婚……? ああ、そうなのね。領主になったんですもの。あの頃より、そういう立場の相手が必要だったのね。なんて可哀想なアラスター」

 話の通じない相手だと認識した門番たちが、どうしたものかと渋い顔をしていると、敷地内からこちらに向かって、馬車が来るのが見えた。

「領主様の馬車だ」

「そうか。もう、出掛けられる時間だったな」

 二人の会話に、カイラは目をキラキラと輝かせた。


「アラスター!!」


 声の限り、カイラは門の外から声を張り上げた。

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