不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ

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「それじゃあ、行ってくるわね」

「ああ。楽しんでおいで」

 休日の朝。
 街で友達と芝居を見るために出かけるロッティを、ジェフが玄関で見送る。玄関扉が閉まると、ジェフは二階の寝室へと移動した。窓から外の様子をうかがう。ロッティを乗せた馬車の姿が見えなくなると、ジェフも出かける準備をはじめた。

「私も買い物に行ってくるよ。夕刻には戻るから」

 使用人に告げ、ジェフは屋敷を出た。馬車はいらないからと言い、街へと足を向けた。リンジーと、最初で最後のデートをするためだ。ロッティが友達と芝居に出かけたのは、むろん偶然ではない。それに合わせて、この日を選んだ。ロッティが何処に向かうのかも把握しているので、それとは真逆の方向にある店で、リンジーと落ち合うことになっていた。

 街にある紳士服の店に入る。ジェフがまわりを見渡すと、リンジーが「ジェフ様!」と駆け寄ってきた。ジェフが苦笑する。

「まだ約束の時間までかなり余裕があると思っていたのだけれど」

 女性を待たすわけにはいかないと、ジェフもかなり早目に屋敷を出たつもりだったが、リンジーはそれよりも早くここに来ていたようだ。

「例え少しでも、ジェフ様との時間を減らしたくなかったから」

 リンジーがはにかむ。何て。何て健気なんだ。ジェフの決心が揺らぎかける。たまらずリンジーを抱き締めたくなったが、何とかおさえた。それに比べ、リンジーはきちんと約束を守り、手を繋ぐ素振りすら見せず、常に一定の距離を保ってくれた。

(……いい子だ。もし私にロッティがいなければ、私はきっと)

 そう思うほどには、ジェフはリンジーに惹かれていた。太陽がどんどん傾いていき、空が淡いオレンジ色に染まりはじめる。後ろを歩くリンジーの口数が、少なくなっていく。

(……そろそろ、屋敷に戻らなければ)

 ジェフは足を止め、リンジーを振り返った。終わりを告げようとしたが、先に「ジェフ様」と呼ばれ、ジェフは咄嗟に口を閉じた。

「……広場でお別れしませんか?」

 うっすら滲む双眸で、リンジーが小さく笑う。

 一生懸命、涙をこらえているのが見てとれた。

 
 ──断れるはずなどなかった。

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