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「お兄様がいつからラナのことを好きになったのかは私にもわからない。ただ、ラナに恋人ができたと私が告げたとき、お兄様が涙をこぼしたの」

 リタが、そっと目を閉じる。あのときのことは、よく覚えている。慌てて涙をぬぐった兄に、リタは素直にこう訊ねた。

『お兄様は、ラナのことが好きなのですか?』

 メイナードは『はは、そうだね。そうかもしれないな』と哀しそうに笑った。そして。

『……けれど。いまさら、わたしに好きだと告げる資格などないからね。わたしは遠くから、ラナの幸せを願うとするよ。だからリタも、このことは誰にも言わないでくれるかい? もちろん、ラナにもね』

 当時兄と交わした会話を、リタはそのままラナに語ってみせた。ラナの目は、ずっと見開かれたままだ。

「勝手なことをして、ごめんなさい。でも、ラナの中に、まだお兄様がいるような気がしたから」

「……どうしてそう思ったの?」

「うちに来るたびに、ラナはいつもお兄様を探していたでしょう? そして、いないとわかると一瞬だけとても哀しそうな顔をするのよ──まあ、根拠はたったそれだけだったのだけれどね」

「……わたし、哀しそうな顔してたの?」

 ラナがきょとんとする。まるで自覚がなかったからだ。ふふ。リタが頬をゆるめる。

「少なくとも私には、そう見えていたって話しよ。安心して。これ以上、私はなにかをするつもりはないわ。この話しはこれでおしまい。そろそろ教室に行きましょうか。遅刻してしまうわ」

「──リタは」

「ん? なに?」

「……リタは、わたしとメイナード様が付き合うことになってもいいの?」

「もちろんよ。ラナさえよければ、是非ともそうなってほしいわ」

「婚約者と親友の演技にずっと騙されていた、おろかなわたしでも?」

 真剣な眼差しに、リタが、馬鹿ね、と小さく笑った。

「私ね。本当はラナが義姉になってくれたら素敵だなって、ずっと思っていたのよ」
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