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 翌日の朝。

「──リタ!!」

「あら、ラナ。おはよう」

 学園の入り口付近でリタを待ち伏せしていたラナは、リタの姿を見つけるなり、叫んだ。

「ちょっとついてきて!」

 なんの用事か察しているリタは、ラナに腕を引かれながらもにこにことしている。学園の入り口から離れた、人気のないところまでくると、ラナはリタの腕を離し、くるりと向き直った。

「昨日、メイナード様が家に来たわ」

「知っているわ。私がお兄様にそう促したのだから」

「わたしがニックとレズリーに裏切られたこと、話したの?」

「詳しくは話していないわ。伝えたのは、ラナとニックの婚約が破棄されたことだけ」

 ラナは「……そうなの」とほっと息をついた。家族に事情を知られるのは仕方のないことだったとしても、他の誰かに知られるのは、なにより恥ずかしかった。婚約者と親友が、ラナの知らないところで実は愛し合っていました、なんて。悲しみよりも、情けなくて、恥ずかしい思いが強かったから。

「あたりまえじゃない。私はただ、お兄様にこのチャンスを逃してほしくなかっただけよ」

「……メイナード様に、告白されたわ」

 ラナがぎゅっと制服のスカートのすそを握る。リタは小さく笑った。

「──お兄様は、ずっとラナを想っていたからね」

「嘘よ。リタは知っているはずじゃない。わたしがメイナード様に告白して、フラれていることっ」

「そうね。だからこそお兄様は、生涯ラナに気持ちを伝えるつもりはなかったの。それを私が、強引に説得したのよ」

「だって、メイナード様は言っていたもの。わたしのこと、妹みたいに愛しているって……っ」

「きっとね。近すぎて、わからなかったんじゃないかしら。だってお兄様は、ラナが生まれる前から、ラナのことを見守ってきたんだもの」

 ラナが、ふいっと顔をそむけた。これ以上聞きたくない。そういった意思表示にも見えたが、リタはあえて続けた。

「ラナがお兄様にフラれてしばらくしてから、お兄様がお父様のすすめで別の公爵家のご令嬢と付き合いはじめたのは覚えている?」

「……覚えているわ。とてもショックだったもの」

「美しい人だったわ。見た目わね。でもその人が──まあ、あまり性格のよろしくない人でね。貴族では珍しくもないのだけれど、中でも使用人に対する態度がひどくてね。その人と会ってから帰宅した日はいつも、お兄様はぶつぶつもらしていたわ。ラナならあんなことしないのに。ラナならあんなこと言わないのに。ラナなら、ラナならって。それはもう、うるさかったんだから。その人とは結局、ひと月ももたずに別れてしまったし」

 ラナが困惑しながら、何度もまばたきを繰り返す。それはまったくの初耳だったからだ。次いでリタから語られた出来事に、ラナは目を丸くした。
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