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「私が本当に愛しているのは、君だけだよ」

 伯爵家の嫡男であるニックが誰もいない校舎の裏でそう囁いたは、婚約者であるラナではなく、ラナの親友のレズリーだった。

 ラナは大好きな婚約者のニックと、大好きな親友を探して校内を歩き回っていた。もう夕暮れどきのいま、校舎に残っている者は少ない。

 声が聞こえた気がして、ラナは人気のない校舎裏を覗いてみた。そこには、探していた二人がいた。愛おしそうに、抱き合った二人が。

 ラナが目を丸くする。貴族が通う学園に入学してから、一目惚れしたニック。告白されたときは、本当に嬉しかった。両家の親公認で、付き合うようになった。親友であるレズリーも、良かったねと祝福してくれていたのに。

「でもごめんね。家のためには、公爵家の長女であるラナと結婚するしかないんだ」

 ニックがレズリーの頬に手を添える。眉を歪め、辛そうに語る。

 そう。とても辛そうに。

 両思いだと信じていた。いつだって優しかったあなた。愛していると何度も言われた。なのに──。

(そうだったんだ。わたしが公爵家だから、ニックは……)

 哀しかった。胸が張り裂けそうなほど。でも。

「ラナと結婚するのは、お金のためだけだよ。信じて」

 泣きじゃくるレズリーを、ニックが必死に慰める。ラナのせいで。ラナがニックを好きにならなければと、陰口を言い合いながら。

「ニックと両思いなのは、私なのに……位が上だからって、あの子はいつも私を見下して、大切な者を奪っていく……伯爵家の令嬢じゃなければ、あんな子……っ」

「仕方ないよ。きっと、蝶よ花よと大切に育てられ、甘やかされて育ってきたんだ。きっと全てが思い通りにいくと信じて疑ってないんだよ」

 冗談ではない。公爵家の長女として、どれだけ厳しく育てられてきたか。その一旦は、親友であるレズリーは知っているはずなのに。

 ラナはしばらくしてからふと、胸の奥の何かがぷつんと弾けた気がした。拳を強く握る。

 ──ならば、お望み通りに。
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