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「入学おめでとう、ルイス」

「ありがとう。マリーも、卒業おめでとう」

 すっかりマリーの背を追い越したルイスが、大人びた笑顔を浮かべる。マリーが王都にある王立学園に入学してから三年の月日が経った、八月。

 マリーは王立学園を卒業し、入れかわるように、来月、ルイスが入学する。

「ね、ルイス。約束、ちゃんと覚えてる?」

「もちろん。そういうマリーこそ、どう? まさかもう、好きな人が出来たとか言わないよね」

「──言わないわ」

 残念ながら。とは、マリーの心の呟きである。ルイスが「なら、良かった」と、ホッとしたように胸を撫で下ろした。



 マリーが王立学園に入学が決まった日。マリーはルイスに告白された。そのとき、マリーはとある提案をした。

「……ルイスもわたしと同じ王立学園に通うつもりなのよね?」

「? そうだけど……」

「なら。あなたが学園を卒業してから、あらためてまた、気持ちを聞かせてもらえるかしら」

「どうして?」

「あなたはまだ、とても狭い世界しか知らない。王立学園に通うようになれば、わたしなんかよりもずっと、素敵なレディとの出逢いがあるはずだから。その上でまだわたしを想ってくれていたら、そのときに返事をするわ」

 ルイスはぷうっと頬を膨らませた。もうすぐ十三になるというのに、相変わらず随分と可愛らしい。

「……それはマリーにも言えることだよね」

「ふふ、そうね。否定はしないわ」

 恋愛に臆病になっていたから。それとも純粋な好意を向けてくれるルイスに、惹かれはじめていたから。だからそんな提案をしたのだろうか。マリーにも正直なところ、よくわかっていなかった。でも、ルイスに言ったことに嘘偽りはない。それが一番の理由だった。


 王立学園に通うようになってからしばらくして、社交界デビューを果たしたマリー。学園でも舞踏会でも、男性に声をかけられたことは幾度となくあった。その手を取ろうしたことはあったものの、ジャスパーの裏切りが脳裏を過り、どうしても躊躇してしまう自分がいた。

 怖いのだ。相手を信じられないと言ってもいい。この人も演技をしているのではないか。自分が公爵令嬢だから、媚をうっているだけではないのか。そんな風に考えてしまう自身に嫌気がさすことも多々あったが、どうしようもなかった。


 結局は誰も受け入れることが出来ず、婚約者もいないまま、マリーは学園を卒業した。

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