26 / 32
26
しおりを挟む
「ジャスパー」
崩れ落ちたジャスパーに、マリーが近付く。ジャスパーがすがるような双眸を向けてくる。
「あ、ああ……マリー、助けてくれ。修道院なんて冗談じゃない……ぼくはきみと結婚がしたいんだ」
マリーは「無理よ。だってわたし、あなたのこと嫌いだもの」ときっぱりと言い捨てた。
「違うわね。嫌いって言葉がぬるいぐらい、あなたが憎いわ。憎くて憎くて、頭がどうにかなりそうよ」
マリーは腰を屈め、床に膝をついた。いまは恐怖の感情よりも、憎しみが勝っていた。
「血の繋がった弟でさえ、簡単に殺そうとしたあなただもの。わたしなんて、虫を殺すより心が痛まなかったんじゃない?」
ジャスパーが「……何を言っているのかわからない……ぼくがきみを殺すはずないじゃないか……」と、否定するようにゆるく頭をふる。
「どんな言葉を並べても、わたしはあなたと結婚するつもりはないし、助けるつもりもない。だからね。もう本当のこと、言っていいのよ?」
「…………何を」
「本当はわたしのこと、ずっと嫌いだったんでしょう? ただ将来楽をするために、必死で我慢して、わたしに優しくしていただけなのよね?」
ジャスパーがボロボロと泣きはじめた。どうしてそんなことを言うんだと、泣き叫ぶ。マリーは惑わされことなく続けた。胸にある首飾りを握りしめながら。
「もうわたしに取り繕っても、何にもならないのよ。本音を言うなら、今しかないわ。わたしとあなたは、二度と会うことなどないのだから」
繰り返し続ける。我慢がきかなくなったジャスパーは、とうとう目をくわっと剥いた。
「──ああ、そうだよ。お前が言っていた通り、いつも金魚の糞みたいにくっついてくるお前が鬱陶しいったらなかった……誰だってそう思うさ。ぼくだけじゃない。公爵令嬢だから我慢してたけどな。お前と居るとストレスがたまる一方だったよ。こうなったのは全部、お前のせいだ!!」
全ての胸の内を吐露したジャスパーが、荒く呼吸をする。押さえられない怒りのためか、ランゲ公爵のこめかみに血管が浮き出る。シュルツ伯爵はあまりのショックに目眩がしたのか、ふらついている。
「よくもそんな勝手なことを……マリーに近付き、告白をしてきたのは貴様の方だろうが!!」
「……あれだけ好きだ、愛していると囁きながら何を……端から見ていても、マリー嬢の行いは何ら問題などなかった……ただお前に愛されていると信じていたからこその行為だろう……? どこまで自己中心的なんだ、お前は……」
二人の言葉にマリーは「いいえ。わたしにも反省すべき点はありました」と告げてから、けれど、と手を振り上げた。
「あなたがルイスたちにしたことは、あなた自身の問題よ。本当にあなたには、赤い血が流れているのかしら」
バシッ。
マリーは力の限りジャスパーの左頬をひっぱたいた。今度は目を白黒させるジャスパーの右頬を。最後にもう一度左頬を打ってから、マリーは薄く笑った。
「今のあなたも未来のあなたと変わらずに屑だと確認できてよかったわ──さよなら」
崩れ落ちたジャスパーに、マリーが近付く。ジャスパーがすがるような双眸を向けてくる。
「あ、ああ……マリー、助けてくれ。修道院なんて冗談じゃない……ぼくはきみと結婚がしたいんだ」
マリーは「無理よ。だってわたし、あなたのこと嫌いだもの」ときっぱりと言い捨てた。
「違うわね。嫌いって言葉がぬるいぐらい、あなたが憎いわ。憎くて憎くて、頭がどうにかなりそうよ」
マリーは腰を屈め、床に膝をついた。いまは恐怖の感情よりも、憎しみが勝っていた。
「血の繋がった弟でさえ、簡単に殺そうとしたあなただもの。わたしなんて、虫を殺すより心が痛まなかったんじゃない?」
ジャスパーが「……何を言っているのかわからない……ぼくがきみを殺すはずないじゃないか……」と、否定するようにゆるく頭をふる。
「どんな言葉を並べても、わたしはあなたと結婚するつもりはないし、助けるつもりもない。だからね。もう本当のこと、言っていいのよ?」
「…………何を」
「本当はわたしのこと、ずっと嫌いだったんでしょう? ただ将来楽をするために、必死で我慢して、わたしに優しくしていただけなのよね?」
ジャスパーがボロボロと泣きはじめた。どうしてそんなことを言うんだと、泣き叫ぶ。マリーは惑わされことなく続けた。胸にある首飾りを握りしめながら。
「もうわたしに取り繕っても、何にもならないのよ。本音を言うなら、今しかないわ。わたしとあなたは、二度と会うことなどないのだから」
繰り返し続ける。我慢がきかなくなったジャスパーは、とうとう目をくわっと剥いた。
「──ああ、そうだよ。お前が言っていた通り、いつも金魚の糞みたいにくっついてくるお前が鬱陶しいったらなかった……誰だってそう思うさ。ぼくだけじゃない。公爵令嬢だから我慢してたけどな。お前と居るとストレスがたまる一方だったよ。こうなったのは全部、お前のせいだ!!」
全ての胸の内を吐露したジャスパーが、荒く呼吸をする。押さえられない怒りのためか、ランゲ公爵のこめかみに血管が浮き出る。シュルツ伯爵はあまりのショックに目眩がしたのか、ふらついている。
「よくもそんな勝手なことを……マリーに近付き、告白をしてきたのは貴様の方だろうが!!」
「……あれだけ好きだ、愛していると囁きながら何を……端から見ていても、マリー嬢の行いは何ら問題などなかった……ただお前に愛されていると信じていたからこその行為だろう……? どこまで自己中心的なんだ、お前は……」
二人の言葉にマリーは「いいえ。わたしにも反省すべき点はありました」と告げてから、けれど、と手を振り上げた。
「あなたがルイスたちにしたことは、あなた自身の問題よ。本当にあなたには、赤い血が流れているのかしら」
バシッ。
マリーは力の限りジャスパーの左頬をひっぱたいた。今度は目を白黒させるジャスパーの右頬を。最後にもう一度左頬を打ってから、マリーは薄く笑った。
「今のあなたも未来のあなたと変わらずに屑だと確認できてよかったわ──さよなら」
339
お気に入りに追加
5,514
あなたにおすすめの小説

愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる