大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ

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 何か言いたげにジャスパーが視線を向けてきたが、マリーは無視した。ようやく諦めたジャスパーが「……失礼します」と、部屋から出ていく。

(……お父様に着いてきてもらって、本当に良かった)

 マリーはようやく、肩の力が抜けたようにホッと息をつき、うしろを振り返った。

「ルイス、大丈夫? どこも怪我してない?」

 ルイスは目を丸くしながら、首をかしげた。

「……どうしたのですか、マリー様。ジャスパーお兄様より、ぼくを気にかけるなんて」

 その言葉に、マリーは胸の奥が痛んだ。確かに、ルイスの言う通りだったから。ジャスパーの言うことを真に受けて、話しかけることすらしなくなってしまっていた。結果、ルイスのことをほとんど何も知らないまま、彼は亡くなってしまった。

「……そう、そうよね。ごめんなさい、ルイス。わたし、もっとあなたとお話すれば良かったわ」

「マリー様……?」

 うつ向くマリーの肩に、ランゲ公爵が「まだ間に合う」と、静かに手を置いた。そうですね。微笑むマリーに、ルイスが眉根を寄せる。

「……あの」

「ごめんなさい。何のことかわからないわよね」

 マリーが涙を滲ませ、小さく笑う。ルイスの困惑は深まるばかりだったが、どうしても聞いてみたいことがあったルイスは、思い切って口を開いた。

「……どうして、あんなことを聞いたのですか?」

 マリーは何となく察しながらも「──あんなことって?」と、優しく笑んだ。

「ジャスパーお兄様と、本当に遊んでいただけなのかって……」

「……うん。それはね、疑っているからなの。もしかしたら、わたしの勘違いかもしれないけど」

「疑う……? ジャスパーお兄様を、マリー様がですか?」

「ええ、そうよ」

「いったい、何を……」

 マリーは一瞬の間のあと。ゆっくりと口火を切った。

「──ジャスパーが、あなたをバルコニーから突き落とそうとしていたんじゃないかって」

 ルイスが、はち切れんばかりに目を見張った。だが「そんなことありえません」といった言葉がルイスの口から吐き出されることは、ついになかった。表情から読み取れるのは、ただただ、驚愕のみ。

 どうしてそんなことを。そう返されると思っていたが、次にルイスが口にしたのは、予想外のことだった。
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