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「……あなたはいったい、なにがしたいの? なにが望みなの?」

 宇宙人でも見るかのようなアデルの双眸に、セドリックが頭に血をのぼらせる。

「きみのそれは、すべて夢だ! そんなもので、ぼくを振り回すな!」

「じゃあ、先ほどのダーラの反応はなに?」

「そんなの知らない!」

「わたしがあなたの台詞を口にしたとき、あなた、動揺していたわよね?」

「……憶測で話をするのはもう止めてくれないか」

「──そんなに、爵位と財産がほしいの?」

 一拍置いたアデルの問いかけに、数秒沈黙したあと、セドリックは、もちろんそれもあるよ、と言った。

「次男なんだから、願うのも当然だろう? けど、それだけじゃない。何度も言わせないでくれ。ぼくはきみを愛しているから、きみと結婚したいんだ」

「でもね。わたし、もう二人の顔も見たくないの。こんなことでは、結婚なんてできないわ」

「貴族の結婚は、平民とはわけが違う。そんな感情論で動いていいわけはない。きみは、わがまますぎる」

「わたしの死を願う相手なんかと、一緒に暮らせると思う?」

「だから、それは夢だよ。しつこいな」

 吐き捨てられた言葉の冷たさに、言われたわけでもないダーラが呆然とする。対し、アデルはあくまで冷静だった。

「お父様たちは、認めてくれたわ。ノリントン伯爵にも、あなたと結婚はできませんと、お父様を通して伝えてもらったの。今朝、了承の手紙がきたわ」

 セドリックが、そんな馬鹿な、と眉をひそめる。

「いくら親馬鹿でも、たかが夢で……それにあまりに一方的過ぎる。父上が、認めるはずがない。これは、むしろネルソン伯爵が慰謝料を請求される立場じゃないか」

「それでもいいと、お父様は言ってくれたわ」

「は? 娘が言う戯言を鵜呑みにして、婚約破棄して、慰謝料を支払うって?」

「ええ。だからノリントン伯爵も、了承してくれたのでしょうね」

 力が抜けたように、セドリックはふらふらと席に座った。

「……こんな馬鹿な一家だとは思わなかった」

「でも、そのおかげであなたはお金を手に入れられたうえに、本当に愛する人と結婚できるのよ? 嬉しくないの?」

「……ダーラと? しないよ」

 ダーラが、え、と声を上げた。

「ど、どうして?」

「どうしてって……きみと結婚しても、メリットがなにもないじゃないか」

「……メリット? でも、あたしと一緒になりたいって……アデルが死ねばって」

「そんなこと、言った覚えはないよ。きみも夢を見ていたのか。勘弁してくれ」

 セドリックは面倒くさそうに、頭をがしがしと掻いた。

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