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 訪れた教会で、対応してくれたシスターに、エラという名の女の子はいますかと訊ねた。ごくりと、アデルが生唾を呑み込む。ただならぬ雰囲気に、シスターは戸惑った様子で。

「あ、あの。エラがなにかご迷惑をっ」

 貴族令嬢がいきなり訊ねてきての、切羽詰まった問いかけに、シスターが震える。それすら気付かないほどにまわりが見えていないアデルは、ぱあっと目を輝かせた。

「エラは、ここにいるのですね?!」

「え、えと」

 フォローするように、ネルソン伯爵夫人がアデルの前に立ち、失礼しましたとゆるりと頭を下げた。

「突然、申し訳ありません。娘は、そのエラという女の子に助けられたので、是非ともお礼がしたいと」

「お礼、ですか」

 そこでやっと、少しだけ冷静さを取り戻したアデルは、はっと姿勢を正した。

「わたしが泣いているのを、エラだけが見つけて、話しかけてくれたんです。それにわたし、どれほど救われたか」

 シスターは、まあ、と感激したようだった。

「ええ、ええ。あの子は少し変わったところもありますが、とても優しい子なんです。お待ちください。いま、呼んでまいりますので」

 礼拝堂から、奥へ続く扉へと姿を消したシスター。どくん。どくん。アデルの心臓が、早鐘を打つ。エラが、アデルの知るエラとは限らない。たまたま、同じ名の女の子がいただけという可能性もある。

(……お願いします、神様。あの二人の恋の邪魔はしません。ですからどうか、あれが事実だっという証拠をっ)

 祈りを捧げる。ほどなくして、扉の向こうから足音がしてきた。

 扉が開く。

 シスターに連れられてきたのは、確かに。


「……ああっ」


 ひとりぼっちだったアデルを見つけ、話しかけてくれた、あの女の子だった。


 エラがアデルの姿を確認して、キョトンとしている。アデルとシスターを交互に見てから、恐る恐るといった風にアデルを指差した。

「シスター……あのおねえちゃん」

「あなたにお礼が言いたいと、わざわざここに来てくれたのですよ」

 エラはにこにこと語るシスターから、もう一度、アデルに視線を戻した。こてんと、不思議そうに首を傾げる。その様子が可愛らしくて、アデルは思わず、笑ってしまった。

「エラ、見て。わたし、身体に戻れたのよ」

 意味がわからず、今度はシスターが首を捻った。対してエラは、嬉しそうに口元を緩めた。

「ほんと?!」

「本当。エラのおかげ」

「エラ、なんにもしてないよ」

「いいえ。わたしを見つけ、話しかけてくれたわ。そしてここが現実だと教えてくれた」

 アデルは一歩一歩近付き、腰を屈め、両手を広げた。

「抱き締めてもいい?」

 エラがシスターを見上げる。シスターはこくりと頷きながら穏やかに笑っていたので、エラは、いいよ、と答えた。

「ありがとう」

 抱き締めたエラからは、太陽の匂いがした。

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