証拠はなにもないので、慰謝料は請求しません。安心して二人で幸せになってください。

ふまさ

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「……どういうことだ?」

 ネルソン伯爵に訝しげに聞かれ、アデルは思わず、ふっと目を伏せた。

 エラを探す。と、どれほど意気込んだところで、アデル一人では、屋敷から出ることも叶わない。移動には馬車も必要。従者も御者も、父親の命で動いている。つまるところ、両親の協力なしに、エラを探すことなど不可能なのだ。

(……信じてくれるかしら)

 不安と戦いながら決意したことでも、やはり心が揺らぐ。それでも負けまいと、アデルは顔を上げた。

「わたし、寝たきりだったとき、話すことも身体を動かすこともできませんでしたが、意識はあったのです」

「……!」

「信じられないかもしれませんが、わたしの意識は、身体から離れていたのです。自分の身体を、ずっと近くから見ていました。でも、その存在は誰にも認識されることはありませんでした」

 両親が、信じられない、といった双眸を向けてきたので、アデルは重ねた。

「わたしが病室で眠っているときの、お父様とお母様の会話だって、聞いていました!」

 そして。覚えてる限りの、二人の会話を語ってみせた。

「あと、あとなにをすれば信じてくださいますか?!」

 必死に祈るアデルに、ネルソン伯爵は半信半疑ながらも、落ち着きなさい、と言った。

「例えばそれが本当だとして、どうしてお前は、女の子を探したいんだ。その理由は?」

 アデルは、言葉に詰まった。それはすなわち、セドリックとダーラの本性を、二人が吐いた台詞の数々を、伝えるということで。いや、それよりなにより怖いのが。

 それを両親に、頭ごなしに否定されること。

 二人がそんなこと、言うはずがない。二人に失礼だと叱られ、エラを探すことも叶わずに、なかったことにされてしまわないか。

 アデルは、それがなにより恐ろしかった。

「……誰にも存在を認識されず、一人きりで泣いているところを、エラという女の子が、その女の子だけが、気付いて、声をかけてくれたのです」

 ついて出たのは、そんな台詞だった。ネルソン伯爵が、なんとまあ、と背もたれに体重を預ける。けれど。目を逸らしたアデルに、ネルソン伯爵夫人は。

「……本当に、それだけですか?」

「お母様……?」

「わたくしたちの会話を、あなたは確かに、きちんと把握していました。なら、一つ問います。セドリックとダーラが二人であなたの病室にいたとき、あの二人は、どんな会話をしていたのですか?」

 アデルは思わぬ問いかけに、目を見開いた。

「……お母様、どうして……」

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