証拠はなにもないので、慰謝料は請求しません。安心して二人で幸せになってください。

 アデルの婚約者、セドリック。アデルの幼なじみ、ダーラ。二人がアデルの目の前で口付けを交わす。

 そして。

「このままアデルが死ねば、きっとなんの障害もなく、きみと一緒になれるのに」

 セドリックの台詞に、ダーラが「……セドリック様」と、熱っぽい眼差しを向ける。

「軽蔑したかい?」

「いいえ、いいえ。あたし、同じことを思っていました。だってこのまま、例え意識を取り戻さなくても、アデルが生きていたら、セドリック様はずっと縛られたままなんじゃないかって……」

「流石にずっとこのままじゃ、それはないと思うけど。でもやっぱり、死んでくれた方が世間体もいいしって、考えてしまうよね」

「そう、ですね。でもあたしたち、酷いこと言ってません?」

「かもね。でも、きみの前で嘘はつきたくないから。その必要もないし」

「ですね」

 クスクス。クスクス。
 二人が愉快そうに笑い合う。

 傍に立つアデルは、顔面蒼白なまま、膝から崩れ落ちた。

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