20 / 22
20
しおりを挟む
「──嫌です」
間を置かず、デージーはきっぱりと告げた。あまりにデージーらしからぬ行動に、両親は目を瞠った。
「な、んですって?」
「お母様。わたし、アール様とお姉様が両想いなら、身を引こうと思いました。その覚悟もしました。でも、違ったのです」
「違わないわ! 二人とも、あなたに気を使っているだけよ! どうしてそんなこともわからないの?!」
「お母様たちが信じようが信じまいが、お姉様がわたしに花瓶を投げつけてきたのは事実です。それに、お姉様のおっしゃっていることは滅茶苦茶でしたし、わたしへの気遣いなど、欠片も感じられませんでした」
「ま、まあ……何てことをっっ」
ワウテレス伯爵夫人が口元をおさえ、よろける。その様子に、アールは激しい怒りを覚えた。
「デージーの言うとおり、コリンナは無茶苦茶でした──が、それはどうやら、あなたたちも同じようだ。これ以上の話し合いは無意味だということが、よく理解できましたよ」
行こう。デージーが差し出された手を掴むと、アールはデージーを連れて、応接室を出ていこうとした。ワウテレス伯爵夫人が、待ちなさい、と止めようとするのを、ワウテレス伯爵が制止した。
「あなた、どうして……っ」
「そやつは、コリンナではなく、デージーでいいと言っているんだ。ありがたい話しではないか」
ワウテレス伯爵は、ぎろりとアールに鋭い視線を向けた。
「後悔するなよ、シェーベリ伯爵家次男。お前は、爵位を継げる唯一の機会を逃したのだ」
アールはさらりと、そうですか、と流し、デージーと共に、さっさとその場を後にした。
デージーもまた、振り返ることは、一度もしなかった。
間を置かず、デージーはきっぱりと告げた。あまりにデージーらしからぬ行動に、両親は目を瞠った。
「な、んですって?」
「お母様。わたし、アール様とお姉様が両想いなら、身を引こうと思いました。その覚悟もしました。でも、違ったのです」
「違わないわ! 二人とも、あなたに気を使っているだけよ! どうしてそんなこともわからないの?!」
「お母様たちが信じようが信じまいが、お姉様がわたしに花瓶を投げつけてきたのは事実です。それに、お姉様のおっしゃっていることは滅茶苦茶でしたし、わたしへの気遣いなど、欠片も感じられませんでした」
「ま、まあ……何てことをっっ」
ワウテレス伯爵夫人が口元をおさえ、よろける。その様子に、アールは激しい怒りを覚えた。
「デージーの言うとおり、コリンナは無茶苦茶でした──が、それはどうやら、あなたたちも同じようだ。これ以上の話し合いは無意味だということが、よく理解できましたよ」
行こう。デージーが差し出された手を掴むと、アールはデージーを連れて、応接室を出ていこうとした。ワウテレス伯爵夫人が、待ちなさい、と止めようとするのを、ワウテレス伯爵が制止した。
「あなた、どうして……っ」
「そやつは、コリンナではなく、デージーでいいと言っているんだ。ありがたい話しではないか」
ワウテレス伯爵は、ぎろりとアールに鋭い視線を向けた。
「後悔するなよ、シェーベリ伯爵家次男。お前は、爵位を継げる唯一の機会を逃したのだ」
アールはさらりと、そうですか、と流し、デージーと共に、さっさとその場を後にした。
デージーもまた、振り返ることは、一度もしなかった。
265
お気に入りに追加
3,137
あなたにおすすめの小説
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
愛している人に愛されない苦しみを知ってもらおうとした結果
よしゆき
恋愛
許嫁のトビアスのことがカティは幼い頃から好きで彼と将来結婚できることを心から喜び楽しみにしていたけれど、彼はカティを妹のようにしか見てくれず他の女性と関係を持っていた。結婚すれば女として見てもらえると期待していたけれど結局なにも変わらず、女として愛されることを諦めたカティはトビアスに惚れ薬を飲ませ、そして離婚を切り出し家を出た。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる