12 / 22
12
しおりを挟む
「お別れしましょう、アール様」
アールが固まる。当然だろう。まさかデージーの方から別れを告げるなんて、考えもしなかっただろうから。
「……驚かせて、申し訳ありません。実は、お姉様から事前に、知らされていまして……」
「……なに、を」
「十日、いえ、もう十一日前ですね。その日に、アール様がお姉様に、告白したこと。そしてお姉様がそれを、受け入れたことです」
ズキズキ。ズキズキ。
何でもない風を装ってはみても、胸はしっかりと痛みを覚える。
「今日のお芝居、アール様と一緒にみること、わたしはとても楽しみにしていました。だから今日まで黙っていてくれたのですよね? ありがとうございます」
でも、涙は出ていない。
「これまでわたしの婚約者でいてくださった。それだけでもう、わたしは充分です。どうか、愛する人と──お姉様と、幸せになってください」
そうか、ありがとう。
というたぐいの言葉は、まだアールからは出てこなかったが、それで構わなかった。伝えようと思っていたことは、全て伝えられたから。
「お姉様は、今日一日、お屋敷にいるとおっしゃっていました。わたしはもうしばらくここにいますから、どうぞ、わたしのことなど気にせず──」
「……待ってくれないか」
絞り出されたようなアールの重い声色に、デージーは一旦、話を止めた。
「……はい、何でしょう」
どうか、謝らないで。余計に哀しく、惨めになるから。わたしを思うのなら、このまま、置いていってほしい。
心の中で、祈る。
膝の上に置いた強く握りしめられたこぶしが、小刻みに震えはじめた。
アールが固まる。当然だろう。まさかデージーの方から別れを告げるなんて、考えもしなかっただろうから。
「……驚かせて、申し訳ありません。実は、お姉様から事前に、知らされていまして……」
「……なに、を」
「十日、いえ、もう十一日前ですね。その日に、アール様がお姉様に、告白したこと。そしてお姉様がそれを、受け入れたことです」
ズキズキ。ズキズキ。
何でもない風を装ってはみても、胸はしっかりと痛みを覚える。
「今日のお芝居、アール様と一緒にみること、わたしはとても楽しみにしていました。だから今日まで黙っていてくれたのですよね? ありがとうございます」
でも、涙は出ていない。
「これまでわたしの婚約者でいてくださった。それだけでもう、わたしは充分です。どうか、愛する人と──お姉様と、幸せになってください」
そうか、ありがとう。
というたぐいの言葉は、まだアールからは出てこなかったが、それで構わなかった。伝えようと思っていたことは、全て伝えられたから。
「お姉様は、今日一日、お屋敷にいるとおっしゃっていました。わたしはもうしばらくここにいますから、どうぞ、わたしのことなど気にせず──」
「……待ってくれないか」
絞り出されたようなアールの重い声色に、デージーは一旦、話を止めた。
「……はい、何でしょう」
どうか、謝らないで。余計に哀しく、惨めになるから。わたしを思うのなら、このまま、置いていってほしい。
心の中で、祈る。
膝の上に置いた強く握りしめられたこぶしが、小刻みに震えはじめた。
280
お気に入りに追加
3,140
あなたにおすすめの小説
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?
りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。
彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。
この国の第一王子であり、王太子。
二人は幼い頃から仲が良かった。
しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。
過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。
ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。
二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。
学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。
***** *****
短編の練習作品です。
上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます!
エールありがとうございます。励みになります!
hot入り、ありがとうございます!
***** *****
好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。
はるきりょう
恋愛
オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。
好きな人が幸せであることが一番幸せだと。
「……そう。…君はこれからどうするの?」
「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」
大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!
たまこ
恋愛
大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。
2023.5.8
HOTランキング61位/24hランキング47位
ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる