別れ話をしましょうか。

ふまさ

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「お別れしましょう、アール様」

 アールが固まる。当然だろう。まさかデージーの方から別れを告げるなんて、考えもしなかっただろうから。

「……驚かせて、申し訳ありません。実は、お姉様から事前に、知らされていまして……」

「……なに、を」

「十日、いえ、もう十一日前ですね。その日に、アール様がお姉様に、告白したこと。そしてお姉様がそれを、受け入れたことです」

 ズキズキ。ズキズキ。
 何でもない風を装ってはみても、胸はしっかりと痛みを覚える。

「今日のお芝居、アール様と一緒にみること、わたしはとても楽しみにしていました。だから今日まで黙っていてくれたのですよね? ありがとうございます」

 でも、涙は出ていない。

「これまでわたしの婚約者でいてくださった。それだけでもう、わたしは充分です。どうか、愛する人と──お姉様と、幸せになってください」

 そうか、ありがとう。
 というたぐいの言葉は、まだアールからは出てこなかったが、それで構わなかった。伝えようと思っていたことは、全て伝えられたから。

「お姉様は、今日一日、お屋敷にいるとおっしゃっていました。わたしはもうしばらくここにいますから、どうぞ、わたしのことなど気にせず──」

「……待ってくれないか」

 絞り出されたようなアールの重い声色に、デージーは一旦、話を止めた。

「……はい、何でしょう」

 どうか、謝らないで。余計に哀しく、惨めになるから。わたしを思うのなら、このまま、置いていってほしい。

 心の中で、祈る。

 膝の上に置いた強く握りしめられたこぶしが、小刻みに震えはじめた。



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