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レックスの知り合いの貴族が招待してくれた舞踏会に、アリシアがレックスと共にはじめて参加したその日。
「久しぶりね、アリシア」
レックスと共に一通りの挨拶を終え、一息ついたときに声をかけてきたのは、ベティだった。少し痩せたように見える姉の後ろには、気まずそうに立つマイクがいる。
「お姉様……?」
「元気そうで安心したわ。レックス様も──あの、どうかされたのですか?」
レックスが、アリシアとベティの間にそっと立ったのを、ベティが不思議そうに見つめる。
「まさかきみまで招待されていたとは、驚きだな」
マイクが「……すみません。今回の主催の方は、うちと知り合いでして。ベティ嬢がどうしてもと」と、すまなそうに答える。
「──なるほど。それで、きみの目的は何だ?」
レックスに鋭い目を向けられ、ベティが瞳を潤ます。
「そんな……そんな怖い顔をなさらないでください。私はただ、アリシアに謝ろうとしただけです。アリシアに何度手紙を出しても、返事もない。直接伺っても、門前払い。だから、こうするしかなかったのです」
初耳だったアリシアは、前に立つレックスに思わず目を向けた。レックスは、決してベティから目をそらすまいとしていて、気付いてない。
「アリシア。お願いよ。二人だけでお話しがしたいの。ね?」
ベティが、レックスの胸に飛び込むようなかたちで、背後にいるアリシアに語りかける。
「それは駄目だよ。謝罪なら、ここですればいいだけの話しだろ?」
「だって、仕方ないではないですか。レックス様がそんな怖い顔で睨むんですもの。落ち着いて、話しも出来ませんわ」
ベティがレックスの胸に手をあてながら、うつむき、すすり泣く。アリシアは無言でレックスとベティを引き剥がすと、ベティへと視線を向けた。アリシアらしからぬ行動に、ベティとマイクがぽかんと口を半開きにする。
「わかりました、お姉様。あそこのバルコニーで、お話ししましょう」
アリシアが、誰もいないバルコニーを指差す。アリシアの勘が正しければ、ベティの目的は謝罪などではないだろう。なら──。
「そんなこと、わたしが許すと思う?」
レックスに肩をそっとひかれたアリシアの眼差しには、確かな怒気が含まれていた。
「レックス様は、広間からわたしたちのことを見ていてください。お願いします。何かあれば、すぐに叫びます」
──怒っている。
(何だろう……何かしたかな、わたしは)
僅かに動揺しながら、レックスは諦めたように大きく息を吐いた。
「……少しでも様子がおかしいと思えば、すぐに止めるからね」
「久しぶりね、アリシア」
レックスと共に一通りの挨拶を終え、一息ついたときに声をかけてきたのは、ベティだった。少し痩せたように見える姉の後ろには、気まずそうに立つマイクがいる。
「お姉様……?」
「元気そうで安心したわ。レックス様も──あの、どうかされたのですか?」
レックスが、アリシアとベティの間にそっと立ったのを、ベティが不思議そうに見つめる。
「まさかきみまで招待されていたとは、驚きだな」
マイクが「……すみません。今回の主催の方は、うちと知り合いでして。ベティ嬢がどうしてもと」と、すまなそうに答える。
「──なるほど。それで、きみの目的は何だ?」
レックスに鋭い目を向けられ、ベティが瞳を潤ます。
「そんな……そんな怖い顔をなさらないでください。私はただ、アリシアに謝ろうとしただけです。アリシアに何度手紙を出しても、返事もない。直接伺っても、門前払い。だから、こうするしかなかったのです」
初耳だったアリシアは、前に立つレックスに思わず目を向けた。レックスは、決してベティから目をそらすまいとしていて、気付いてない。
「アリシア。お願いよ。二人だけでお話しがしたいの。ね?」
ベティが、レックスの胸に飛び込むようなかたちで、背後にいるアリシアに語りかける。
「それは駄目だよ。謝罪なら、ここですればいいだけの話しだろ?」
「だって、仕方ないではないですか。レックス様がそんな怖い顔で睨むんですもの。落ち着いて、話しも出来ませんわ」
ベティがレックスの胸に手をあてながら、うつむき、すすり泣く。アリシアは無言でレックスとベティを引き剥がすと、ベティへと視線を向けた。アリシアらしからぬ行動に、ベティとマイクがぽかんと口を半開きにする。
「わかりました、お姉様。あそこのバルコニーで、お話ししましょう」
アリシアが、誰もいないバルコニーを指差す。アリシアの勘が正しければ、ベティの目的は謝罪などではないだろう。なら──。
「そんなこと、わたしが許すと思う?」
レックスに肩をそっとひかれたアリシアの眼差しには、確かな怒気が含まれていた。
「レックス様は、広間からわたしたちのことを見ていてください。お願いします。何かあれば、すぐに叫びます」
──怒っている。
(何だろう……何かしたかな、わたしは)
僅かに動揺しながら、レックスは諦めたように大きく息を吐いた。
「……少しでも様子がおかしいと思えば、すぐに止めるからね」
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