28 / 34
28
しおりを挟む
次の日。
学園の廊下でマイクとばったり出会したアリシアが、少し迷いながらも「婚約、おめでとうございます」と頭をさげると、マイクは「……嫌みか?」と苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そんなわけないです。だってマイク様は、ずっとお姉様がいいとおっしゃっていたではないですか」
「……きみは本当に、ぼくが陰で言っていたことを聞いていたんだね」
「はあ。何度か」
「……きみはとても可憐になったね」
「そう言ってもらえると、嬉しいです。これでもレックス様にふさわしい女性になれるようにと努力しているところですから」
「……ぼくのために努力はしてくれなかったわけだ」
アリシアが不思議そうに「好きでもない人のために努力する人はあまりいないのでは?」と首をかしげる。
「……言うようになったね」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ……」
はあ。マイクは大きくため息をついた。
「きみが日に日に痩せていくのを心配もせず、ただ陰口をたたいてぼくに、何も言う資格などないか」
そう小さくぼやくマイクを、アリシアは改めてじっと見た。
「……マイク様、何だかやつれていませんか?」
「そりゃあね。ぼくだって、実の妹にあんな恐ろしいことをしていた人と婚約して、何も思わないわけはないよ。まわりからの視線も痛いし……」
「…………」
「ああ、いや。こんなこと、きみに言うべきではなかったよね」
「……いえ。わたしも考えなしでした」
肩を落とすアリシアに、マイクが小さく頰を緩めた。
「ぼくは仮にも婚約者で、あの頃は誰よりきみの近くにいたのに、きみの苦しみに何も気付いてあげられなかった──本当に、すまなかった」
頭をさげるマイクに驚きながら、アリシアは小さく口を開いた。
「あの。わたし、マイク様のこと好きではなかったですけど」
当然だと思いながら「……うん」とマイクが小さく答える。けれど、続けられた言葉に目を見張った。
「嫌いでもなかったです」
「──そうか」
「はい。わたし、少しかもしれませんが変わったと思うんです。だからお姉様も、もしかしたら……」
これはあまりにも無責任ではないかと思い、とっさに続く言葉を呑み込んだアリシアに、察したマイクは「……うん。そうだね」と、ただ小さく笑った。
学園の廊下でマイクとばったり出会したアリシアが、少し迷いながらも「婚約、おめでとうございます」と頭をさげると、マイクは「……嫌みか?」と苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そんなわけないです。だってマイク様は、ずっとお姉様がいいとおっしゃっていたではないですか」
「……きみは本当に、ぼくが陰で言っていたことを聞いていたんだね」
「はあ。何度か」
「……きみはとても可憐になったね」
「そう言ってもらえると、嬉しいです。これでもレックス様にふさわしい女性になれるようにと努力しているところですから」
「……ぼくのために努力はしてくれなかったわけだ」
アリシアが不思議そうに「好きでもない人のために努力する人はあまりいないのでは?」と首をかしげる。
「……言うようになったね」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ……」
はあ。マイクは大きくため息をついた。
「きみが日に日に痩せていくのを心配もせず、ただ陰口をたたいてぼくに、何も言う資格などないか」
そう小さくぼやくマイクを、アリシアは改めてじっと見た。
「……マイク様、何だかやつれていませんか?」
「そりゃあね。ぼくだって、実の妹にあんな恐ろしいことをしていた人と婚約して、何も思わないわけはないよ。まわりからの視線も痛いし……」
「…………」
「ああ、いや。こんなこと、きみに言うべきではなかったよね」
「……いえ。わたしも考えなしでした」
肩を落とすアリシアに、マイクが小さく頰を緩めた。
「ぼくは仮にも婚約者で、あの頃は誰よりきみの近くにいたのに、きみの苦しみに何も気付いてあげられなかった──本当に、すまなかった」
頭をさげるマイクに驚きながら、アリシアは小さく口を開いた。
「あの。わたし、マイク様のこと好きではなかったですけど」
当然だと思いながら「……うん」とマイクが小さく答える。けれど、続けられた言葉に目を見張った。
「嫌いでもなかったです」
「──そうか」
「はい。わたし、少しかもしれませんが変わったと思うんです。だからお姉様も、もしかしたら……」
これはあまりにも無責任ではないかと思い、とっさに続く言葉を呑み込んだアリシアに、察したマイクは「……うん。そうだね」と、ただ小さく笑った。
625
お気に入りに追加
6,118
あなたにおすすめの小説

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。

王太子殿下はきっと私を愛していない。
haruno
恋愛
王太子殿下の婚約者に選ばれた私。
しかし殿下は噂とは程遠い厳しい人で、私に仕事を押し付けてくる。
それでも諦めずに努力をするも、殿下の秘書が私を妬んでいるようで……

愛するあなたへ最期のお願い
つぶあん
恋愛
アリシア・ベルモンド伯爵令嬢は必死で祈っていた。
婚約者のレオナルドが不治の病に冒され、生死の境を彷徨っているから。
「神様、どうかレオナルドをお救いください」
その願いは叶い、レオナルドは病を克服した。
ところが生還したレオナルドはとんでもないことを言った。
「本当に愛している人と結婚する。その為に神様は生き返らせてくれたんだ」
レオナルドはアリシアとの婚約を破棄。
ずっと片思いしていたというイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢に求婚してしまう。
「あなたが奇跡の伯爵令息ですね。勿論、喜んで」
レオナルドとイザベラは婚約した。
アリシアは一人取り残され、忘れ去られた。
本当は、アリシアが自分の命と引き換えにレオナルドを救ったというのに。
レオナルドの命を救う為の契約。
それは天使に魂を捧げるというもの。
忽ち病に冒されていきながら、アリシアは再び天使に希う。
「最期に一言だけ、愛するレオナルドに伝えさせてください」
自分を捨てた婚約者への遺言。
それは…………

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。

あなたとの縁を切らせてもらいます
しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。
彼と私はどうなるべきか。
彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。
「あなたとの縁を切らせてください」
あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。
新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。
さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ )
小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる