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「わかりましたか? アリシアに、冗談などは通じないのです」
レックスはアリシアが逃げないように、隣に座るアリシアの右手をしっかり握ったままホフマン公爵を見据える。
「──いや、申し訳ない。こんなに素直なご令嬢に会ったのは、はじめてだ。きみは、妻が話していたきみの母親に、そっくりのようだね」
「わたしのお母様、ですか?」
「そうだよ。こちらが心配になるぐらい、素直でとてもいい子だったと、妻は言っていたよ──妻に、きみを会わせてあげたかったな」
ホフマン公爵が、優しい眼差しをアリシアに向ける。
「……ホフマン公爵は、奥様をとても愛していたのですね」
アリシアが呟くと、ホフマン公爵は照れくさそうに笑った。
「まあ、そうだね。愛していたよ。だから妻の親友の子であるきみの力になれて、わたしはとても誇らしいんだ」
「……けれど、わたしは」
「アリシア。その代わりといっては何だけど、一つ頼みがあるんだ」
「は、はい。何でもおっしゃってください」
「息子の妻になる人には、是非とも幸せになってもらいたい。だからね。きちんと食事をして、質のいい睡眠をとって、肌艶をよくしてもらいたい」
アリシアは拍子抜けしたように「……えと」と戸惑う。
「頼むよ。レックスと結婚して良かったと、世間に知らしめてくれ」
「……わたしは」
アリシアが「わたしはもう、充分幸せです」と、レックスの手をぎゅっと握り返す。それを、あたたかい眼差しで見つめるレックス。
『ねえ、あなた。レックスもわたしたちのように、愛する人と結婚出来たらいいですね』
ふと、ホフマン公爵の脳裏に浮かんだのは、亡き妻の笑顔。ホフマン公爵の頰が、緩む。
──きみの願いは、叶うかもしれないよ。
天を仰ぎ、ホフマン公爵は胸中で呟いた。
レックスはアリシアが逃げないように、隣に座るアリシアの右手をしっかり握ったままホフマン公爵を見据える。
「──いや、申し訳ない。こんなに素直なご令嬢に会ったのは、はじめてだ。きみは、妻が話していたきみの母親に、そっくりのようだね」
「わたしのお母様、ですか?」
「そうだよ。こちらが心配になるぐらい、素直でとてもいい子だったと、妻は言っていたよ──妻に、きみを会わせてあげたかったな」
ホフマン公爵が、優しい眼差しをアリシアに向ける。
「……ホフマン公爵は、奥様をとても愛していたのですね」
アリシアが呟くと、ホフマン公爵は照れくさそうに笑った。
「まあ、そうだね。愛していたよ。だから妻の親友の子であるきみの力になれて、わたしはとても誇らしいんだ」
「……けれど、わたしは」
「アリシア。その代わりといっては何だけど、一つ頼みがあるんだ」
「は、はい。何でもおっしゃってください」
「息子の妻になる人には、是非とも幸せになってもらいたい。だからね。きちんと食事をして、質のいい睡眠をとって、肌艶をよくしてもらいたい」
アリシアは拍子抜けしたように「……えと」と戸惑う。
「頼むよ。レックスと結婚して良かったと、世間に知らしめてくれ」
「……わたしは」
アリシアが「わたしはもう、充分幸せです」と、レックスの手をぎゅっと握り返す。それを、あたたかい眼差しで見つめるレックス。
『ねえ、あなた。レックスもわたしたちのように、愛する人と結婚出来たらいいですね』
ふと、ホフマン公爵の脳裏に浮かんだのは、亡き妻の笑顔。ホフマン公爵の頰が、緩む。
──きみの願いは、叶うかもしれないよ。
天を仰ぎ、ホフマン公爵は胸中で呟いた。
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