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 それからレックスが戻ってきたのは、もう日が傾きかけたころだった。

「待たせて悪かったね、アリシア」

 レックスの姿を見るなり、アリシアは安心したようにほっと胸を撫で下ろした。

「いいえ。むしろ、すみません。わたしのせいで……」

「せい、ではなく、ためにって言ってほしかったかな。それに謝罪ではなく、ありがとうという言葉の方が嬉しいかも」

 レックスが柔く微笑む。ああ、これが演技ではなく、本当の笑顔なんだと、無意識に姉の笑った顔と比べていたアリシアは、何だか無性に泣きたくなった。



「明日の休日は、アリシアの身の回りのものを買いにいかないとね」

 レックスの屋敷の食堂にて。誰かと食事するのはどれぐらいぶりだろうと緊張していると、レックスがそう提案してきた。アリシアは、手に持ったナイフとフォークをぴたっと止めた。ここにきてはじめて、アリシアは自分の失態に気付いた。背中に冷たい汗が流れる。

(……わたし、馬鹿だ。身の回りのもの、ちゃんと持ってくれば良かった。父に買い与えられたものなんていらないって置いてきちゃったけど……そんなことすれば、よけいレックス様に迷惑かけてしまうのに……)

 じわ。
 アリシアの視界が、涙で滲む。

「ご、ごめんなさい……わたし、よく考えもせずに、全部置いてきてしまって……」

「うん? 謝ることなんてないよ。むしろ、あんな男に買い与えられたものを使うアリシアの姿を見るのは、わたしも嫌だからね」

 あっけらかんと答えられ、アリシアは思わず、正面に座るレックスをぽかんと見た。

「怒ってはないのですか?」

「どうして? 何を怒ることがあるの?」

 レックスが、切れ長の目を細める。その眼差しがあまりに優しくて、アリシアはとうとう泣いてしまった。泣くのなんて、何年ぶりだろう。それも人前で。

 恥ずかしい。はしたない。情けない。

 わかっていても、涙は一向に止まってはくれなかった。

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