はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ

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 しん。
 応接室が沈黙で満たされる。それを破ったのは、アリシアだった。

 無意識に、隣にいるレックスの服の裾をつかむアリシア。父に話しかける勇気がほしかったのかもしれない。

 たった一人、愛してくれていると信じていた姉に裏切られたショックは、計り知れなかった。でも、アリシアはどこかで吹っ切れていた。ずっと考えていたことを実行にうつそう。そう決意し、父に向けて口を開いた。

 ──そう。どうしても聞きたくて、ずっと聞けずにいたこと。

「……お父様はどうして、わたしがお嫌いなのですか?」

 マイヤー伯爵は動かない。やはり答えてはくれないか。そう思っていると、優しく手を包まれた。見ると、レックスのあたたかな手のひらに、右手が包まれていた。

「マイヤー伯爵。わたしも是非お聞きしたいですね。あなたがアリシアを嫌う理由はなんですか?」

「……き、貴殿には、関係のない、ことです」

 レックスは「──関係ない?」と、目を尖らせた。

「ベティがここまで歪んでしまったのは、あなたのせいでしょう。こんな恐ろしい娘だということを知ったうえで黙っていたのなら、わたしにも考えがあります」

「し、知るはずないでしょう?! こんな……こんなことをしていたなんてっ」

 マイヤー伯爵が頭を抱える。どうやら本当になにも知らなかったようだ。だからといって、罪が消えるわけではない。諸悪の根源はこの男なのだから。

「うちと禍根を残したくないのなら、答えてください。ほら、お早く」

 マイヤー伯爵はぎりっと奥歯を一度噛みしめてから、口火を切った。

「……そいつのせいで、妻は死んだ」

「そいつって、アリシアのことですか?」

「ああ、そうですよ! 妻はあまり身体が強くなかった。ただでさえベティを産むときも危うかったのに、嫡男を産まなければと、あいつは命と引き換えにそいつを産んだ! なのに、女で……あまりに妻が、浮かばれなくて……っっ」

 悲痛に叫ぶマイヤー伯爵に、アリシアは「そんな理由で……?」とぽつりと呟いた。マイヤー伯爵が、怒りに目を剥く。

「そんな理由とはなんだ! 私がどれほど妻を愛していたか、貴様にわかるのか!?」

 わかるわけない。父とまともに話したのは、これがはじめてなのだから。

 アリシアは、ふっと肩の力を抜いた。ずっと悩んできた答えは、思っていたよりもずっと呆気ないものだったから。

 アリシアは、父と姉を交互に見た。驚くほど、もうなんの感情もわいてはこなかった。記憶の片隅に追いやった、姉の世話係となってしまったカーリーとの、たった一度のやり取りがよみがえる。

『……お姉様を、あまり信用なさらないでください』

 廊下でのすれ違いざまに、震えながらそう囁かれた。でも、アリシアは聞かなかったことにした。だってもう、アリシアには姉しかいなかったから。

 ──でも、もう。見えないふりは、終わりにしよう。もう、誰もいないのだから。

 居場所など、きっと最初から何処にもなかったのだ。

「要するに、お父様とお姉様は、わたしに死んでほしい。死んでも構わないと思っているということですよね?」

 父と姉は答えない。声をあげたのは、レックスだった。

「……アリシア? なにを考えている?」

 アリシアは静かにレックスを見上げた。

「レックス様、お願いがあります。わたしが自害した原因は、父と姉にあると証言してくださいませんか?」

 驚愕したのは、レックスだけではなかった。でもそんなこと、もうアリシアはどうでもよかった。

「きっとそれが、わたしに唯一できる復讐なのです」
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