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「──ようは、自作自演だったってことですね」

 カーリーから聞いた全てを語り終えると、レックスはそう締め括った。アリシアだけでなく、マイヤー伯爵も言葉をなくしている。そんな中、ベティだけがやけに冷静だった。

「そんなの嘘です。レックス様は、婚約者である私よりも、よく知りもしない使用人の方を信じるのですか?」

「残念ながら、信じざるを得ないよ。現に、きみがアリシアとマイヤー伯爵に嘘をついていたことはたった今証明されたしね」

「その二人が嘘をついている可能性は考えないのですか?」

「そうくるんだ。きみはわたしが思っているよりも、よほど恐ろしい女性のようだね」

 ベティは、くしゃっと顔を歪めた。

「──どうしてそんな酷いことをおっしゃるの? ねえ、ここにカーリーを連れてきてくださいませ。実家に不幸が起きたからしばらく休暇をくださいなんて言っていたけれど、それは嘘で、レックス様がかくまっているのでしょう? 私が間違っていないこと、証明してみせますから」

 その名に誰より反応したのは、アリシアだった。

「……カーリー?」

 レックスが「きみの乳母だった人だろう? アリシア」と、優しく語りかける。

「……はい」

「彼女はね。ベティに脅されながらも、ずっと心を痛めていたんだ。わたしの屋敷に使用人として迎え入れると言ったんだけど──きみに合わせる顔がないと断られてしまってね」

「カーリーが……」

 突然、何の理由もなしにベティの世話係となってしまった乳母に絶望したことを、アリシアはふっと思い出した。やっぱり、カーリーもお姉様が好きなんだ。そんな風に一人泣いたことを覚えている。

 レックスは再びうつむいてしまったアリシアから、ベティに視線を戻した。

「ベティ。わたしは使用人から聞いた、としか言ってないのに、きみはカーリーだと決めつけているね。それはどうして?」

 ベティは、不思議そうに首をかしげた。

「今、屋敷にいない使用人はカーリーだけだからです。それがそんなに不自然でしょうか?」

 それが演技なのかどうか、レックスには判断できかねた。だからこそ余計、目の前にいる女性が恐ろしく見えた。

「……まあ、いいか。話しを戻そう。ここに連れてきてくれとの願いにはこたえられない。カーリーはすでに、王都にはいない。全てを話してくれたお礼に、それに見合う金銭を渡したからね。現在、カーリーが家族と共に何処にいるのか、わたしも知らないんだ」

「なるほど。お父様、聞きました? さっそく、カーリーの居場所を探させましょう。主に背いた裏切り者を、処罰せねばなりませんからね」

 マイヤー伯爵は顔面蒼白のまま、かたまっている。ベティが「お父様?」と再度語りかけても動こうとしない。

「──一つ、申しあげておきます。もし彼女と、彼女の家族に手を出すのなら、うちを敵にまわすことと同義とお考えください。このことについては、すでに父の了解は得ています」

 表情を消しさり、見たことのないような冷たい双眸を向けてくるレックスに、ベティは息を呑んだ。

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