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「ねえ、ベティ。アリシアは少し、痩せすぎじゃないかな」

 レックスが問うと、ベティは困ったように薄く笑った。

「──そう、そうですね。わたしも本当にそれが気がかりで……ですがいろいろと、事情があるのです。心配していただいて、ありがとうございます」

 これ以上は聞かないでほしい。そう言われた気がした。アリシアと会えるのは、学園にいるときだけ。けれど学園では、ほとんどベティと一緒にいる。だからこれまで、一対一でアリシアと話せる機会があまりなかった。

『……ご存知なかったんですか? 学園のみんながそう言っているものだとばかり思っていましたけど、そうじゃなかったんですね』

『むしろ可哀想なのは、マイク様です。こんなわたしを、いくらお金のためとはいえ、結婚相手に選ばなければならなかったのですから』

 だから、驚いた。アリシアが卑下されることを当然のように思っていることに。どころか、慣れていると言ってもよいほどに、淡々としていた。

『あの、大丈夫です。わたし、何とも思っていませんから』

 本当に、何とも思っていないように見えた。思えないのか。思わないようにしているのか。それすらレックスには判断できなかった。

『本当です。わたしだって、マイク様のこと愛していません。お互い様なんです』

 この子は、愛されることを知らないのではないか。そんな風に思えたレックスは、以前から感じていた違和感も手伝い、ベティにも内密にマイヤー伯爵家の内情を調べることにした。

 それは思っていたよりも、簡単に知ることができた。それはレックスにつかえる従者が、屋敷まで連れてきた、マイヤー伯爵家につとめる使用人である一人の女性からもたらされた事実。

 最初は、口を閉ざしていた。でも、歯を食いしばりながら口を強く引き結ぶその姿に、まさかと思いながら脅されているのかと訊ねると、その使用人は小さくうなずいた。

「……わたしだけでなく、わたしの家族にまで被害が及びます。下手をすれば、アリシアお嬢様にも……だから、話せません」

 それは、はっきりとなにかありますと言っているようなものだった。レックスはゆっくりと、優しい声音でこう誓った。

「──うん、わかった。きみも、きみの家族もわたしが守る。むろん、アリシアも。誓うよ。だから知っていることを全て、話してくれないかな」

 瞬間。その使用人は、たがが外れたようにぶわっと涙を浮かべた。

「……アリシアお嬢様を助けてください。あ、あの子があまりにも不憫で……っっ」

 たまっていた胸の内を、使用人は次々とレックスに溢れさせていった。もしや、と思っていたものが現実となっていき、レックスはぞっとした。それから心を満たしたのは、どうしようもない嫌悪と怒りだった。

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