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(……頬を打ったのは、やりすぎたかな。いや、それ以上のことをリアはしたのだし……)
モーガンが黙考していると、目の前で寝台に横になるアビーが不安そうに「お兄様?」と呼び掛けてきた。モーガンは、はっとし、意識して微笑んだ。
「なんでもないよ。具合はどうだい?」
「だいぶよくなってきました。それに、ほっとしたら、なんだか眠くなってきて」
「眠っていいよ。そばにいるから」
「はい。お兄様」
アビーはまぶたを閉じ、しばらくすると寝息をたてはじめた。それからモーガンは、玄関の扉が勢いよく開けられる音を聞いた。
(? なんだか下が騒がしいな)
両親が帰ってきたのだろうか。それにしては、なんだかおかしい。不審に思ったモーガンは、アビーの部屋を出て、階段をくだった。玄関ホールには、両親がいた。そして、もう一人。
「フォーゲル公爵……?」
顔を真っ赤にして怒っているのは、リアの父親であるフォーゲル公爵だった。階段の途中までおりてきていたモーガンに気がつくと、フォーゲル公爵は叫んだ。
「モーガン! おりてこい!」
あまりの剣幕に、シュミット公爵とシュミット公爵夫人が困惑する。こんなに激高するフォーゲル公爵を見たのははじめてだったからだ。
「う、うちの息子がなにかしたのでしょうか」
シュミット公爵がおそるおそるたずねると、フォーゲル公爵は射すような視線を向けた。
「してましたとも。最も、私もなにも気付かなかったという点では、同罪ですがな」
モーガンは、リアが父親に泣きついたのだと怒りを覚えていた。自分がアビーに花瓶を投げつけたくせに。そのうえ、訳のわからないことを叫んだ。だから打った。きっとリアは、自分に都合のいいことしか説明していないのだと、モーガンは考えた。
ぐっと唇を噛み締め、モーガンはフォーゲル公爵の前に立った。
「──リアの頬を打ったことにかんしてのお話しでしょうか?」
「「なっ…?!」」
そろって驚きの声をあげた両親に、モーガンは視線をうつした。
「あれは、リアがアビーに花瓶を投げつけたから。さらに、そんなに妹が大切なら、妹と結婚しろと訳のわからないことを言われ、頭に血がのぼってしてしまったことです」
モーガンの両親が絶句する中、フォーゲル公爵は冷静に言葉を吐き捨てた。
「──貴様は、その現場を目撃したのか?」
「……え?」
「貴様の妹に、リアが花瓶を投げつけたその瞬間を目撃したのかと聞いている!!」
「そ、それは……でも、確かに花瓶はアビーのうしろで割れていて」
「それについて、リアはなにも言っていなかったか?」
「……言ってはいました。でも、それはあり得ないことで」
「そうだ。貴様は、妹の言い分だけを信じた。リアの言うことは一切信じずに。これまでも、ずっとそうだったらしいな」
「そ、そんなことはありません……っ」
「ほう。では、デートに一時間、二時間の遅刻はあたりまえ。数時間娘を待たせたあげく、デートをキャンセルしたことさえあるそうだが。それも嘘か?」
「そ、それは……」
口ごもるモーガン。それは、肯定したようなものだった。それに誰より驚いたのは、モーガンの両親だった。顔面蒼白のまま、母親が口を開く。
「嘘、でしょ……モーガン、あなた」
「し、仕方がないではありませんか! アビーの具合が急に悪くなってしまって……それでっ」
フォーゲル公爵が「毎回か?!」と、くわっと目を剥いた。
モーガンはうつむき「……はい」と、小さく答えることしかできなかった。モーガンとて、毎回の遅刻に罪悪感を覚えていないわけではなかったから。
モーガンが黙考していると、目の前で寝台に横になるアビーが不安そうに「お兄様?」と呼び掛けてきた。モーガンは、はっとし、意識して微笑んだ。
「なんでもないよ。具合はどうだい?」
「だいぶよくなってきました。それに、ほっとしたら、なんだか眠くなってきて」
「眠っていいよ。そばにいるから」
「はい。お兄様」
アビーはまぶたを閉じ、しばらくすると寝息をたてはじめた。それからモーガンは、玄関の扉が勢いよく開けられる音を聞いた。
(? なんだか下が騒がしいな)
両親が帰ってきたのだろうか。それにしては、なんだかおかしい。不審に思ったモーガンは、アビーの部屋を出て、階段をくだった。玄関ホールには、両親がいた。そして、もう一人。
「フォーゲル公爵……?」
顔を真っ赤にして怒っているのは、リアの父親であるフォーゲル公爵だった。階段の途中までおりてきていたモーガンに気がつくと、フォーゲル公爵は叫んだ。
「モーガン! おりてこい!」
あまりの剣幕に、シュミット公爵とシュミット公爵夫人が困惑する。こんなに激高するフォーゲル公爵を見たのははじめてだったからだ。
「う、うちの息子がなにかしたのでしょうか」
シュミット公爵がおそるおそるたずねると、フォーゲル公爵は射すような視線を向けた。
「してましたとも。最も、私もなにも気付かなかったという点では、同罪ですがな」
モーガンは、リアが父親に泣きついたのだと怒りを覚えていた。自分がアビーに花瓶を投げつけたくせに。そのうえ、訳のわからないことを叫んだ。だから打った。きっとリアは、自分に都合のいいことしか説明していないのだと、モーガンは考えた。
ぐっと唇を噛み締め、モーガンはフォーゲル公爵の前に立った。
「──リアの頬を打ったことにかんしてのお話しでしょうか?」
「「なっ…?!」」
そろって驚きの声をあげた両親に、モーガンは視線をうつした。
「あれは、リアがアビーに花瓶を投げつけたから。さらに、そんなに妹が大切なら、妹と結婚しろと訳のわからないことを言われ、頭に血がのぼってしてしまったことです」
モーガンの両親が絶句する中、フォーゲル公爵は冷静に言葉を吐き捨てた。
「──貴様は、その現場を目撃したのか?」
「……え?」
「貴様の妹に、リアが花瓶を投げつけたその瞬間を目撃したのかと聞いている!!」
「そ、それは……でも、確かに花瓶はアビーのうしろで割れていて」
「それについて、リアはなにも言っていなかったか?」
「……言ってはいました。でも、それはあり得ないことで」
「そうだ。貴様は、妹の言い分だけを信じた。リアの言うことは一切信じずに。これまでも、ずっとそうだったらしいな」
「そ、そんなことはありません……っ」
「ほう。では、デートに一時間、二時間の遅刻はあたりまえ。数時間娘を待たせたあげく、デートをキャンセルしたことさえあるそうだが。それも嘘か?」
「そ、それは……」
口ごもるモーガン。それは、肯定したようなものだった。それに誰より驚いたのは、モーガンの両親だった。顔面蒼白のまま、母親が口を開く。
「嘘、でしょ……モーガン、あなた」
「し、仕方がないではありませんか! アビーの具合が急に悪くなってしまって……それでっ」
フォーゲル公爵が「毎回か?!」と、くわっと目を剥いた。
モーガンはうつむき「……はい」と、小さく答えることしかできなかった。モーガンとて、毎回の遅刻に罪悪感を覚えていないわけではなかったから。
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