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「あんなに素敵な方と婚約できるなんて、うらやましいですわぁ」

 モーガンとの婚約が成立して以来、そのうわさは学園中に広まっていき、リアもモーガンも、しばらくはたくさんの人に囲まれた。幸せだった。本当に。でも、そのころだったろうか。モーガンがデートに遅刻をするようになってきたのは。

 最初は、ほんとに少しの遅刻。それがどんどんと長くなっていき。そしてある日、とうとう、二時間待たされたあげく、キャンセルまでされてしまった。

 いつもの広場でニールとモーガンを待っていたリアの元に、モーガンの屋敷の使用人の男が青い顔をしながら駆けつけてきた。

「も、申し訳ございません。リア様。モーガン様は、どうしても手が放せない用ができてしまい、今日の予定をキャンセルさせてもらいたいと、言付かってきました……っっ」

 ニールが青筋を立てながら前に出ようとするのを手で制止ながら、リアは目を口を開いた。

「……アビーの具合が悪いからですか?」

 使用人が、口ごもる。リアはそれ以上追及することはやめた。

「……それで。このこと、おじさまたちは?」

「ほ、本日、旦那様たちは家におられず……」

 だからかこそのキャンセルじゃないだろうな。ニールは舌打ちしそうになった。だが。

「──そう、良かった。なら、モーガンたちがとがめられることもないわね」

 リアが、ほっと息を吐いた。ニールも、使用人までもが目を見張った。

「……怒っては、いらっしゃらないのですか……?」

「正直言うと、最初はね。でも、事故に遭ったとかでなくて良かったわ」

 リアが頬を緩めるのを見て、ニールはくやしさから、こぶしを強く握りしめた。どうせこのことも、両親には言うなと止められるのだろう。けれど、これは本当にお嬢様のためになるのだろうか。ニールは自問自答したが、結局はリアにこわれるまま、このことを誰にも告げることはしなかった。
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