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テーブルまで運ばれてきた昼食をじっと見ながら、パメラがぽつりと呟いた。
「……あたし、聞いてしまったのです」
「? 何をだ」
「……クラスメイトの一人が小声で、婚約者じゃないくせにと、あたしを見ながら言っていたのを」
ヘイデンは、はち切れんばかりに目を見開いた。
──パメラが婚約者じゃないとみなに知れた? 変化の原因はこれか? 一体、どうして。
(……あいつか……っっ)
朝に婚約を申し込もうとした公爵令嬢の顔が浮かんだ。確かに口止めはしていなかったが、こんなことを言いふらす馬鹿だとは思いもよらなかった。
(……第一王子である私を裏切ったこと、すぐに後悔させてやるっ)
ヘイデンの中で公爵令嬢は、完璧な裏切り者となっていた。どんどんと怒りや憎しみがわいていき、落ち着いていたはずのイライラが、また身体を巡りはじめた。
「あの、何か心当たりでも……?」
小首をかしげるパメラ。いつもなら愛らしいと思える仕草も、何だがイラッときた。
「何だ、その目は」
「え?」
「私のせいだとでも言いたげだな」
パメラが「そんなことは一言も……」と、不快そうに眉をひそめる。それにますます腹が立った。
どうしてしなくていい苦労をしなければならない。マイラが記憶喪失になどなったのが悪い。あれがなければ、全てがうまくいくはずだった。
──いや。もとを正せば。
「そもそもの問題は、お前の頭の出来の悪さだろうが」
吐き捨てられたヘイデンの言葉に、パメラがぴしっと固まる。何を言われたのか。すぐには理解することができなかった。
「……あの、ヘイデン殿下。いま、何をおっしゃられたのですか?」
ヘイデンは面倒そうに舌打ちした。
「本当に頭が悪いな。それでは王妃教育から逃げるしかなかったのも納得だ」
「…………っ」
「お前のせいで私がどれほど迷惑し、奔走したか。お前は知らないだろう。父上や母上たちを何とか説得し、お前と一緒にいられる道を、私がつくってやった。ただ文句を言うしか能のないお前と違ってな」
パメラは瞬きすら忘れ、見開かれた双眸でヘイデンを見ていた。見た目ではわからないが、パメラの頭の中はいま、ぐちゃぐちゃだった。
「……あたし、聞いてしまったのです」
「? 何をだ」
「……クラスメイトの一人が小声で、婚約者じゃないくせにと、あたしを見ながら言っていたのを」
ヘイデンは、はち切れんばかりに目を見開いた。
──パメラが婚約者じゃないとみなに知れた? 変化の原因はこれか? 一体、どうして。
(……あいつか……っっ)
朝に婚約を申し込もうとした公爵令嬢の顔が浮かんだ。確かに口止めはしていなかったが、こんなことを言いふらす馬鹿だとは思いもよらなかった。
(……第一王子である私を裏切ったこと、すぐに後悔させてやるっ)
ヘイデンの中で公爵令嬢は、完璧な裏切り者となっていた。どんどんと怒りや憎しみがわいていき、落ち着いていたはずのイライラが、また身体を巡りはじめた。
「あの、何か心当たりでも……?」
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「え?」
「私のせいだとでも言いたげだな」
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どうしてしなくていい苦労をしなければならない。マイラが記憶喪失になどなったのが悪い。あれがなければ、全てがうまくいくはずだった。
──いや。もとを正せば。
「そもそもの問題は、お前の頭の出来の悪さだろうが」
吐き捨てられたヘイデンの言葉に、パメラがぴしっと固まる。何を言われたのか。すぐには理解することができなかった。
「……あの、ヘイデン殿下。いま、何をおっしゃられたのですか?」
ヘイデンは面倒そうに舌打ちした。
「本当に頭が悪いな。それでは王妃教育から逃げるしかなかったのも納得だ」
「…………っ」
「お前のせいで私がどれほど迷惑し、奔走したか。お前は知らないだろう。父上や母上たちを何とか説得し、お前と一緒にいられる道を、私がつくってやった。ただ文句を言うしか能のないお前と違ってな」
パメラは瞬きすら忘れ、見開かれた双眸でヘイデンを見ていた。見た目ではわからないが、パメラの頭の中はいま、ぐちゃぐちゃだった。
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